2018年11月27日

相殺禁止に関する法律の改正

1 相殺とは

たとえば,AさんがBさんに対して10万円の債権を持っていて,
BさんがAさんに対して10万円の債権を持っているとします。

こんなとき,現金を用意してお互いに支払うよりも,
債権どうしを同じ額で消滅させれば,お互い10万円を渡す必要がないので,
はるかに簡単で速く清算できます。

このように,向い合っている同じ種類の債権を同額で消滅させることを,
相殺(そうさい)といいます。

相殺をするにはいくつかの条件がありますが,
相手方の債権は,弁済期が到来していなければなりません。
相殺がされてしまうと,実質的にはお金を回収されてしまうので,
まだ支払わなくてよかったはずの相手の権利を奪うことになるからです。

 

2 相殺ができない場合

相殺できるのは同じ種類の債権どうしだけですが,
上で挙げた例のように,お金を支払わせる金銭債権の相殺はよく使われています。

ただし,同じ金銭債権でも,さまざまなものがあります。
物を売ったら代金の債権,お金を貸したら貸金の債権,会社で働いたら給与の債権,
何かを壊されたり傷つけられたりした損害賠償の債権などもあります。

これらの債権すべてで,相殺ができるとすると,困ったことにならないでしょうか。

たとえば,AさんがBさんに殴られてけがをしたため,
10万円の損害賠償請求権を持っており,BさんはAさんに100万円を貸していて,
100万円の貸金債権を持っているとします。

これらはいずれも金銭債権ですが,このような場合に相殺できるとすると,
Aさんは実際にはお金が手に入りませんし,
Bさんは借金を支払わせる代わりにAさんをまだ殴れると考えるかもしれません。

そこで,現行法では,BさんがAさんを殴ったように,
違法に他人に損害を与える行為(不法行為)による損害賠償の債権は,
相殺により消滅させることが禁じられています(民法509条)。

これにより,被害者は現実に補償を受けられるように,
不法行為を起こした加害者には実際にお金を支払わせ,
安易に不法行為に及ばないようにしようとしているのです。

なお,不法行為の場合だけでなく,働く人の給与債権も,
会社や雇い主が相殺で消滅させることはできないとされていますので,注意が必要です。

 

3 改正法のルール

現行法のルールでは,交通事故のうちの物損事故など,
けがをした治療費や,収入が減った損害(逸失利益)などがなく,
実際にお金を支払う必要がさほど大きくない場合にまで,
相殺を禁止するのは過剰だ,との意見がありました。

また,医療事故や労働災害など,不法行為以外の場合にも,
生命や財産にかかわることがあるのに,
相殺禁止の範囲から除外されているのはおかしい,との批判もありました。

そこで,改正法では,
①悪意による不法行為の場合,
②人の生命又は身体の侵害による損害賠償の場合,
の2つに限り,相殺を禁止することとしました。

これにより,今後は,車をぶつけてしまった修理費などは相殺できるようになりましたし,
医療ミスや労災で損害賠償責任がある場合に,
相殺はできず実際にお金を支払わなければならなくなります。

 

4 相殺の合意

相殺が禁止される場合についてお話してきましたが,いずれも被害者や労働者といった,
立場が弱い側の人を保護するものです。
そのため,保護される側が相殺に同意する場合には,相殺してもかまわないことになります。

そこで,法律で相殺が禁止される場合でも,相手方と合意ができれば,相殺をすることができます。
もちろん,相手方の自由意思であることが前提であり,
脅したりして圧力をかけて合意させた場合は,合意は無効です。

相殺は便利ですが,なんでもできるわけではありませんので,ご注意ください。

2018年11月27日 | Posted in 全記事, 民法改正, 法人の相談 | | Comments Closed 

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