懲戒解雇について
1 はじめに
「懲戒解雇」という言葉を聞いたことのある方も多いと思います。
懲戒解雇とは何か,その他の解雇とはどこが違うのか,懲戒解雇が有効となるのはどのような場合か,懲戒解雇の場合に退職金はどのなるのか等について,解説していきます。
2 懲戒解雇とは
懲戒解雇とは,懲戒処分としての解雇のことです。
懲戒処分とは,従業員が企業秩序を乱す行為をした場合に,会社が従業員に対して制裁の趣旨で課す処分のことです。懲戒処分には,けん責(始末書を書かせる),減給,出勤停止,降格,解雇などの種類があり,懲戒解雇は,懲戒処分の中で最も重い処分です。
通常,使用者が労働者を解雇する場合には,解雇の30日前までに解雇の予告をするか,解雇予告手当として30日分の賃金を支払う必要があります(労働基準法20条1項)。
もっとも,①天変事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合,または②労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合には,解雇予告や解雇予告手当ての支払う必要はありません(労働基準法20条1項但書)。
懲戒解雇事由がある場合には,②に該当すると考えられるため,解雇予告や解雇予告手当てを支払うことなく,即時に解雇できると考えられます。
ただし,懲戒解雇事由がある場合であっても,解雇予告や解雇予告手当ての支払いを免れるためには,懲戒解雇する前に,所轄の労働基準監督署から「解雇予告除外認定」を受けておかなければなりませんので,注意が必要です。
3 懲戒解雇が違法とされる場合
懲戒解雇は,
②就業規則において①の企業秩序違反行為が懲戒事由として規定されていること
③解雇がやむを得ないと言えるほど秩序違反の程度が著しいこと
といった要件が揃っている場合に,有効となります。
したがって,就業規則に懲戒解雇が可能であるとの規定がない場合,従業員の行為によって企業秩序が乱されたとは言えない場合,従業員が企業秩序違反行為を行ったのは事実だが違反の程度が重大とは言えない等の場合には,懲戒解雇は違法となります。
4 懲戒解雇が有効とされる理由の例
懲戒解雇が有効とされる理由の例を,いつくかご紹介します。
(1) 職場内での横領・詐欺・窃盗など
例えば,経理担当の従業員が業務上管理していた会社のお金を領得した場合(業務上横領罪に該当し得ます),旅費などを過大に請求し,過大に取得した場合(詐欺罪に該当し得ます),金庫に保管されていた会社のお金を盗んだ場合(窃盗罪に該当し得ます)などの職場内における金銭関係の不正行為は,
それ自体が刑法犯に該当し得るものであり,背信性の高い企業秩序違反行為であると考えられます。そのため,そのような不正行為を行った従業員に対して課す懲戒解雇は,有効とされることがあります。
もっとも,これらの職場内における金銭上の不正行為を行った従業員に対する懲戒解雇が常に有効と判断されるわけではなく,不正行為の態様,不正行為が行なわれた期間,不正行為によって取得された金額の大小などの事情によって,有効か否かが決まります。
(2) 無断欠勤
従業員には労務提供義務がありますので,従業員が無断で欠勤を続けた場合には,その従業員に対する懲戒解雇が有効となる場合があります。
もっとも,無断欠勤の場合も常に懲戒解雇が有効となるわけではなく,無断欠勤に至った理由や,無断欠勤の期間の長さによっては,懲戒解雇が違法とされることもあり得ます。
(3) 経歴詐称
従業員が入社する際,通常,履歴書を提出するなどの方法により,会社に対して自分の経歴を伝えます。学歴・職歴・犯罪歴といった従業員の経歴は,企業秩序の秩序維持にかかわる重要な事項であり,それを詐称することは懲戒事由となり得ると考えられており,経歴詐称を理由とする懲戒解雇が有効となる場合があります。
もっとも,経歴詐称を理由とする懲戒解雇も,常に有効となるわけではありません。詐称された経歴が,会社による従業員の労働力や信用力の評価を誤らせるような重要なものであり,経歴詐称によって会社と従業員の信頼関係が破棄されたと評価できる場合などに,経歴詐称を理由とする懲戒解雇が有効となります。
裁判例では,過去に犯罪を犯し刑務所で服役していたことがある従業員が,そのことを会社に告げていなかった場合に,懲戒解雇が有効とされたものがあります。
(4) 職場内での暴力,ハラスメント行為など
従業員が同僚や上司,部下などに対して暴力を振るったり,セクハラやパワハラといったハラスメント行為を行った場合,暴力やハラスメント行為を理由とする懲戒解雇が有効となる場合があります。
暴力やハラスメント行為があれば直ちに懲戒解雇が有効となるわけではないのは,上記(1)~(3)の場合と同じです。
暴力の場合は,暴力行為の態様や回数,相手方が怪我をしたかどうかや怪我の内容,程度などの事情が,
ハラスメント行為の場合は,ハラスメント行為の態様,ハラスメントが行なわれた期間,職場でハラスメント防止の研修などが行なわれていたかどうか(会社内でハラスメント防止の研修や啓発活動などが行なわれており,その従業員が研修等を受けていたにもかかわらずハラスメント行為を行ったことは,懲戒解雇を有効と判断する方向に働く事情です)などの事情が,考慮されます。
5 懲戒解雇と退職金について
従業員が懲戒解雇された場合,その従業員に退職金が支払われることになるのでしょうか。
就業規則において,従業員が懲戒解雇された場合には退職金を支給しないと規定されていることがあります。
もっとも,このような規定がある場合でも,必ずしも,懲戒解雇した従業員に対して退職金を支給しなくて良いということにはなりません。
懲戒解雇した従業員に退職金を支給する必要があるか否かは,従業員の秩序違反行為の程度によって判断されます。
従業員の秩序違反行為の程度が,これまでの会社に対する功労を帳消しにしてしまうほど大きいような場合は,退職金を支給する必要はないと判断されます。
他方,功労を帳消しにする程度の秩序違反とは言えない場合には,秩序違反の程度に応じて,退職金を全額支給するのが相当とされることもあれば,本来支給される退職金の何割かを支給するのが相当とされることもあります。
6 おわりに
懲戒解雇について,解説してきました。
懲戒解雇を検討する前提として,就業規則に懲戒解雇することができる旨を規定し,懲戒解雇事由を規定しておくなど,就業規則を整備する必要があります。
また,懲戒解雇は,裁判等で有効性が争われることがしばしばあり,裁判所によって判断が分かれるような事案もあります(第一審では懲戒解雇有効と判断されていたものの,控訴審で無効と判断されることもあります)。
さらに,解雇前の従業員に対する会社の対応によって,懲戒解雇が有効になるか無効になるかが変わるという場合もあります。
懲戒解雇には,複雑な法的論点が多数ありますので,従業員への懲戒解雇を検討される場合は,弁護士に相談されることをお勧めします。
1990年愛知県生まれ。
交通事故に注力している。
『被害に遭った方の気持ちに寄り添う』ことをモットーとしており、
適切なスピード感を持って,相談者の悩みに誠実に応えるようにしている。