【企業法務の事例】社員の退職に関する問題解決
ご相談の内容
先日、当社のある部門の社員(以下「社員A」といいます)が退職しました。
元々、前職で同種の仕事をしていたということで、即戦力として期待して採用したのですが、こちらの期待に反し、能力は乏しいと言わざるを得ない状況でした。それでも、部門責任者は粘り強く、丁寧に指導を続けました。毎週、作業週報を提出させて、部門責任者がチェックし、毎回、コメントを付けて返信をするということも続けていました。
そういった指導の甲斐もなく、社員Aは一向に作業が上達しませんでした。部門責任者は、教育担当者を変えたり、教育担当を増員したりして、指導方法の工夫も続けましたが、3年ほど経っても、全く上達が見られませんでした。
そのような中、部門責任者は、社員Aに対し、社員Aのためを思って、「この作業には向いていないかもしれない、違う部門に移るとか、転職をするということも選択肢の1つかもしれない」と提案しました(なお、部門責任者は、後でトラブルになった場合に備えて、その時の会話を録音していました)。
すると、社員Aは、翌日から仕事に来なくなり、そのまま退職しました。
社員Aが退職して暫く経ったある日、突然、弁護士から文書が届きました。文書の内容を確認すると、社員Aは部門責任者による違法な退職強要で退職を余儀なくされた上、適切な指導を受けられなかったため精神疾患を抱えることとなった、違法な退職強要や不適切な指導により精神疾患を患ったことに対する慰謝料や治療費の支払いを求める、というものでした。請求金額は合計で数百万円に上ります。
会社としては、退職を強要したものではなく、懇切丁寧な指導にも努めてきたので、社員Aにお金を支払う義務はないと考えています。一方、弁護士からの文書には、支払いに応じなければ裁判を起こすと書かれていて、裁判になると世間体の問題などがあるので、できれば裁判を起こされることなく解決したいです。裁判を起こされずに解決するなら、多少のお金を払っても良いと考えています。
どのように対応するのがよいでしょうか。
解決への道筋
ご依頼を受けた後、速やかに回答文書を作成し、相手方の弁護士に送付しました。
回答書では、まず、社員Aに行ってきた指導内容を詳細に記載し、社員Aに対して適切な指導がなされていた旨、伝えました。回答書には、社員Aに提出させていた週報や会社側のコメントが付された返信内容の一部を添付しました。
また、退職強要をした事実はないことを、その時の会話の録音があることを示しながら、当時の会話の内容を説明しました。
会社側が裁判になる前に解決することを望んでいたため、回答書において、裁判になってしまったら一切支払いはできないが、裁判前の交渉段階であれば多少の支払いの余地があることも記載しました。回答書送付後、相手方弁護士と交渉し、最終的に、数十万円の解決金を支払うということで、合意がしました。ご相談を受けてから1か月程度で解決に至りました。
このケースでは、指導の内容が一部記録されていて、退職や他部門への移籍に言及した際の会話も録音されていたため、記録に基づいて相手方を説得することができました。会社としては適切に対応していると考えていても、それが証拠化されていないと、後々になって証明できず、会社側にとって不本意な結果に終わってしまう場合もあります。可能な範囲で、記録を残すよう努めて頂くと良いと思います。
また、早期にご相談頂いたことで、円満かつ迅速な解決が実現しました。弁護士が早期に動くことで適正・迅速な解決に繋がることもありますので、労務問題でお困りのことがあれば、早めに顧問弁護士などの弁護士にご相談下さい。