2023年06月29日

【企業法務の事例】退職した社員からの残業代請求

ご相談の内容

退職した元従業員から、残業代請求の訴状が裁判所から届きました。

営業マンだったのですが、タイムカードのとおりにこれまで残業代を支払ってきましたし、未払の残業代はないと思います。

残業代請求の書類をみると、タイムカードのとおりの勤務時間ではなかったという主張をしているようです。勤務時間の計算は、その人の手帳や通話記録などをもとにしているようです。

営業マンという性質上、外出も多くて、勤務時間のすべてを逐一把握することはなかなか難しいのですが、業務を終わるときは店舗でタイムカードを押すか、次の日にすぐ申告するようにさせていました。それでもこんな多額の未払残業代があるというのはとても納得できません。

解決への道すじ

訴状を確認したところ、自己都合退職でしたし、退職金も規定通り支払われていたので、残業代のみの請求でした。

法律上、労働時間というものは、従業員が会社の指揮や命令を受けて働いている時間のことだといわれています。もともと予定されていた勤務時間の範囲内であれば残業代は発生しないのですが、勤務時間の範囲を超える労働時間があった場合は残業代が発生します。

会社としては、従業員の労働時間を把握する義務があるのですが、この会社ではタイムカードで把握していたようですので、この点はクリアされていました。ただし、実際の労働時間を計算する上で、タイムカード以外の資料も含めて根拠資料にすることができますので、どのような根拠資料からどのような事情が読み取れるかが問題です。

この会社では、早出や残業する場合は、できれば事前に、難しければ次の日に、上司に業務の必要性を報告して届出を出すようにと指導がされていました。このことがあるからといって、労働時間ではなかったとまで認定できるわけではないのですが、従業員がだらけて時間外に働くことを予防できますし、残業の必要性がなかったのではないかと厳しい目でチェックされる方向に傾きます。

 

元従業員側から提出された証拠資料をみると、元従業員が個人的に使っていた手帳のコピーと、元従業員が個人でも業務でも使っていたスマートフォンの通話履歴やLINEのトーク履歴のスクリーンショットでした。これらから、手帳に書かれた予定の時間や、通話履歴・トーク履歴の時間までずっと働いていた、ということを元従業員が主張していたことがわかりました。

 

そこで会社側からは、手帳の記載については、元従業員個人がつけたものであるため正確性にかなり疑問があること、移動時間まで全部を労働時間に含めていることはおかしいことを主張していきました。通話履歴やトーク履歴については、顧客とのやりとりではない疑いがあるものが含まれていることや、営業マンの場合業務終了後などの労働時間外に突発的に顧客から電話などがかかってくることなどあるものの、顧客対応している以外の時間は労働時間とはいえないことなどを主張し、相手方の主張する根拠の1つ1つに反論していきました。

 

裁判所は大筋で会社側の反論を認めましたので、最終的に、元従業員の請求金額から大幅に減額した金額で和解することができました。

 

従業員の行動を逐一把握するのは、プライバシーの問題もあるため限界がありますが、勤務時間の把握はとても大事なことです。今回は、会社として実態を把握するのにできる限りのことをされていたこともあって、会社側の言い分を認めるかたちでの解決ができました。

 

残業代の抑制は経営上重要ですし、できるだけのことをしていてもトラブルになることはあります。少しでも悩まれたら、まずは会社の法務にくわしい弁護士に相談されることをおすすめします。

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