【企業法務の事例】インターネットに会社の秘密情報が書かれてしまった
ご相談の内容
2ちゃんねるに,当社についての掲示板があります。
そこには,当社の営業成績や新入社員の人数取引先企業,退職者数仕入価格などの情報が書かれていました。
内容からみて書き込んだ人物は当社の社内の人間のようなのですが,これ以上書き込まないようにさせたいです。
解決への道すじ
まずは,書き込んでいる人物が何者なのか,特定しなければなりません。
一般的には,インターネットのサイトに接続する場合,まず利用者が契約しているプロバイダのサーバーを通って,次にサイト運営者のサーバーにつながって,サイトにつながります。
そのため,書き込んだ人物を特定するには,
①サイトのサーバー管理者の持つ情報からプロバイダを特定し
②プロバイダに契約者の情報の開示を求める
という2段階をふむ必要があります。
①サイトのサーバー管理者の持つ情報からプロバイダを特定
サイトのサーバーが持つ情報は,記事の投稿がされた日時(タイムスタンプ),投稿者のIPアドレス,ポート番号といったものです。
これで,書き込んだ人が書き込む際に使ったプロバイダまでは特定できますが,それ以上の情報は書き込んだ人物が使ったプロバイダに照会しなければわかりません。
2ちゃんねるの場合,IPアドレスなどの情報 を保存しているのは約3ヶ月のため,5ヶ月や6ヶ月もかかる通常の訴訟の手続きを待ってはいられません。
そのため,数週間で済む仮処分という裁判手続きで,開示を求めることも認められています。
2ちゃんねるに対して,書き込みをした人物が掲示板にアクセスしたプロバイダの情報を開示するよう,直接求めることも考えましたが,2ちゃんねるは大規模な掲示板ということもあって,すぐに開示するとは限らず,時間がかかってしまう可能性があります。
そこで,本件では,2ちゃんねるの持つ情報を開示させるため,急いで準備を進め,情報開示の仮処分を裁判所に申立てました。
その後2週間ほどで,開示を認める判断が出ました。
仮処分の場合,保証金を法務局に供託する必要があります。
供託する金額は裁判所の決定で決まりますが,投稿者の情報開示であれば,ほとんどの場合は10万円です。
本件でも,10万円を供託して,情報開示の命令が出されました。
裁判所の命令が出たことをサイト運営者に対し通知したところ,IPアドレス等が開示されました。
情報開示がされた段階で,供託した保証金は取り戻すことができます。
そこで,保証金の返還の手続きをして,無事10万円の返還を受けました。
その後,開示されたIPアドレスをもとに,「whois」というサービスを利用して,書き込んだ人の利用したプロバイダを特定しました。
②プロバイダに契約者情報の開示を求める
そしてプロバイダに対して情報開示請求をかけました。
プロバイダに情報の開示を求めた場合,多くの場合は,契約者本人に照会文書が送られ,情報の開示に同意するかどうかを確認されます。
本件でも同様にされたようで,請求してから3ヶ月後に,本人の同意がないために拒否するとの回答がありました。
プロバイダに対する開示請求の場合,基本的に情報はプロバイダが長期間保存していますので,仮処分は認められず,通常の訴訟によることになります。
本件ではプロバイダが開示を拒んだため,訴訟を起こすことにしました。
そして,訴訟を起こして6ヶ月後に勝訴判決を得て,ようやく書き込んだ本人にたどり着きました。
書き込んだ本人と直接交渉を行った結果,これまでかかった弁護士費用と慰謝料の支払い,そして今後書き込みをしないとの誓約書を受け取ることができました。
まとめ
このように,書き込みをした人物を特定する場合,1年以上かかることも十分考えられますので,迅速に初動対応することが非常に大切です。
非常に時間も多くの労力もかかりますので,書き込みをした人の特定を希望されるなら,すぐに専門の弁護士に依頼されたほうがよいでしょう。
1987年福井県生まれ。
債務整理やインターネットトラブルに注力している。
相談に来られた方が叶えたい希望はどこにあるのか、弁護士である前に1人の人間として、その人の心に寄り添って共に考えることを心がけている。