2024年10月22日

【お役立ちブログ】フリーランスとの取引に関する新しい法律

 

1 フリーランス新法の概要

今年(令和6年)11月1日に、事業者とフリーランスとの取引に関する新しい法律が施行されます。

この法律は、「フリーランス・事業者間取引適正化等法」や「フリーランス保護法」と呼ばれることもありますが、正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」です。

フリーランスと仕事を発注する会社等との間には、交渉力や情報収集力の格差が生じやすく、フリーランスが弱い立場に置かれやすい傾向があります。その立場の弱さ故に、フリーランスに対する報酬の不払いや遅延が生じることも少なくはなく、フリーランスがハラスメントなどの就業環境に関するトラブルに遭うこともあります。

そこで、フリーランスに係る①取引の適正化②就業環境の整備を目的に、フリーランス新法が制定されました。

そのため、このフリーランス新法は、①取引適正化パート②就労環境整備パートに分けることができ、①取引適正化パートでは、2つの義務と7つの禁止事項が定められ、②就労環境整備パートでは、4つの義務が定められています。

 

2 取引適正化パート

(1)取引適正化パートの義務の1つは、書面等による取引条件の明示義務です。この義務は、フリーランスがフリーランスに業務委託する場合にも生じるため、注意が必要です。

フリーランスに業務委託をした場合、書面等(電子メールやSNSのメッセージも可)により、直ちに、

①業務の内容

②報酬の額・報酬の算定方法

③支払期日

④発注事業者・フリーランスの名称

⑤業務委託日

⑥給付を受領・役務提供を受ける日

⑦給付を受領・役務提供を受ける場所

⑧検査を行う場合の検査完了日

等を明らかにしなければなりません。

 

取引条件のなかには、業務委託時には決定していない事項があるかもしれませんが、その場合でも、内容を定められない理由及び内容を定める予定期日を記載する必要があります。

 

(2)取引適正化パートの義務のもう1つは、報酬支払期日の設定と期限内の支払義務です。

すなわち、給付受領日・役務提供日から起算して60日以内のできる限り早い日に報酬支払期日を設定し、期日内に報酬を支払うこととされています。

ただし、フリーランスに再委託をする場合には別の規制があります。

再委託である旨や元委託者の商号等、元委託業務の対価の支払期日をフリーランスに明示したときは、元委託支払期日から起算して30日以内にフリーランスに対して報酬を支払えば足ります。

これは、再委託をする場合には、元委託者からの報酬を原資として、再委託先に報酬を支払うことが多いと考えられますので、給付受領日・役務提供日から起算して60日という期限を区切ってしまうと、元委託者から報酬が入るまでに60日の期限が来てしまうことがありますので、60日の期限を守ろうとして、逆にフリーランスとの取引を避けることがないようにとの配慮で設けられた規定です。

 

(3)取引適正化パートの最後は、7つの禁止事項です。

フリーランスに対し、1か月以上の業務委託をした場合、次の7つの行為をしてはなりません。

すなわち、

①フリーランスに帰責事由がない給付受領拒絶

②フリーランスに帰責事由がない報酬減額

③フリーランスに帰責事由がない返品

④通常支払われる対価と比べて著しく低い報酬の額を不当に定めること(買いたたき)

⑤正当な理由なく物の購入や役務の利用を強制すること

⑥不当な経済上の利益の提供要請

⑦不当な給付内容の変更・やり直し

が禁止されています。

これら7つの禁止事項の詳細は、公正取引委員会のホームページに、Youtube動画が上がっていますので、そちらをご覧ください。

 

3 就労環境整備パート

次に、就業環境整備パートとして、4つの義務を説明します。

これらは、フリーランスが労働者としての側面も有していることから、労働者と同じようにフリーランスの就業環境を良くしようとするものです。

(1)1つ目は、募集情報の的確表示義務です。

これは、広告等にフリーランスの募集に関する情報を掲載する際に、①虚偽の表示や誤解を与える表示をしてはならない、②内容を正確かつ最新のものに保たなければならないというものです。

(2)2つ目は、育児介護等と業務の両立に対する配慮義務です。

6か月以上の業務委託について、フリーランスの申出に応じて、フリーランスが育児や介護などと業務を両立できるよう、必要な配慮をしなければならないというものです。

例えば、子の急病により予定していた作業時間が確保できないから、納期を短期間繰り下げたいとの申し出に応じ、納期を変更すること、介護のため特定の曜日についてはオンラインで就業したいとの申し出に応じて、一部業務をオンラインに切り替えることが必要な配慮とされています。

(3)3つ目は、ハラスメント対策に係る体制整備義務です。

フリーランスに対するハラスメント行為に関し、①ハラスメントを行ってはならない旨の方針の明確化、方針の周知・啓発、②相談や苦情に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、③ハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応等の措置を講じなければなりません。

(4)最後に、中途解除等の事前予告・理由開示義務です。

6か月以上の業務委託を中途解除したり、更新しないこととしたりする場合は、①原則として30日前までに予告しなければならない、②予告の日から解除日までにフリーランスから理由の開示の請求があった場合には理由の開示を行わなければならないというものです。

ただし、災害その他やむを得ない事由により予告が困難な場合、元委託が解除され、フリーランスに再委託した業務が不要となった場合等、直ちに契約を解除せざるを得ない場合、フリーランスの責めに帰すべき事由がある場合等には、事前予告が不要となります。

 

4 最後に

フリーランス新法の対象となる「フリーランス」の範囲は、思いのほか広く、個人のみならず法人が「フリーランス」になることもありますし、従業員がいなければ弁護士等の士業も「フリーランス」になり得ます。

そこで、どの取引先のどの契約に、このフリーランス新法が適用されるかについて、疑義が生じた場合は、弁護士に相談して頂きたいですし、フリーランス法新の適用の有無にかかわらず、適正な契約内容や募集表示にしておくことが望ましいです。

また、フリーランス新法には、罰則もありますので、注意が必要です。

業務委託契約書や請負契約書等のフリーランスとの取引に用いる可能性がある契約書等について、フリーランス新法に反するところがないかも含めて、顧問弁護士等に相談のリーガルチェックを受けることもご検討ください。

2024年10月22日 | Posted in 企業法務のお役立ちブログ, 全記事, 太田圭一の記事一覧, 新着情報 | | Comments Closed 

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