2025年02月18日

【お役立ちブログ】マイカー通勤中の従業員が起こした事故に関する会社の責任

1 はじめに

従業員が、自身の所有する自動車(マイカー)で通勤している途中で交通事故を

起こした場合、会社は、被害者に対して損害賠償責任を負うのでしょうか。

 

従業員が自動車の任意保険に加入している場合には、

基本的に任意保険会社が賠償しますので、会社が被害者から賠償請求を受けることは

通常ありません。

 

一方、従業員が任意保険に加入していない場合等に、会社が被害者から賠償請求を

受けることがあります。

 

このような事例においては、一律に会社が賠償責任を負うわけではなく、

会社が賠償責任を負う場合と、負わない場合とがあります。

 

そこで、従業員がマイカー通勤中に事故を起こした時、どのような場合に

会社が被害者に対して賠償責任を負うのか、解説します。

 

2 法律の規定

従業員がマイカー通勤中に事故を起こした場合における会社の責任について、

根拠となり得る法律の規定として自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」といいます)3条と民法715条1項があります。

 

自賠法3条は、

「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人に生じた損害を賠償する責任を負う」

と規定しています。

 

従業員がマイカー通勤中に事故を起こした場合の会社の責任との関係では、

 会社が「自動車を運行の用に供する者」と言えるかどうか が、問題となります。

 

また、民法715条1項は、

「ある事業のために他人を使用する者は、被用者が事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」

と規定しています。

 

従業員がマイカー通勤中に事故を起こした場合の会社の責任との関係では、

 従業員のマイカー通勤が「事業の執行」と言えるか が問題となります。

 

3 自賠法3条の「自動車を運行の用に供する者」

自賠法3条の「自動車を運行の用に供する者」とはどんなことかについて、判例では、

①自動車の使用についての支配権を有し(「運行支配」と言われます)、かつ、

②その使用により享受する利益が自己に帰属する者(「運行利益」といいます)

とされています。

 

従業員がマイカー通勤中に事故を起こした場合の会社の賠償責任については、

①会社が従業員の通勤に際するマイカー使用(運行)について監視・監督すべきであったと言えるか、

②従業員がマイカーで通勤することにより会社が利益を得ていたと言えるか、

といった観点から、判断されます。

 

4 民法715条1項の「事業の執行について」

民法715条1項の「事業の執行について」に関し、判例では、

被用者(従業員)の行為を外形的にとらえて客観的に観察して判断する、とされています。

 

従業員がマイカー通勤中に事故を起こした場合の会社の賠償責任が問題となる事案においては、自賠法3条と民法715条1項の該当性判断は重なる部分が多く、

裁判例でも、両者を明確に区別せず、まとめて判断されることが多いです。

 

5 裁判で問題となった事例

従業員がマイカー通勤中に事故を起こした場合の会社の賠償責任について

問題となった裁判例をご紹介します。

 

1  会社の責任が肯定されたもの

 

ア 最高裁昭和52年12月22日判決

この事案は、従業員が工事現場から自宅へ帰る途中で事故を起こしたものです。

従業員が自家用車(単車等)を会社事務所への通勤のために使用するほか、上司の指示があるときは自宅から工事現場への往復にも利用しており、会社はこのような自家用車の利用を承認し、走行距離に応じたガソリン手当等を支給していたといった事情がありました。

最高裁判所は、会社は事故当時における従業員の単車の運行について運行支配と運行利益を有していたとして、被害者に対し自賠法3条に基づく損害賠償責任を負うと判断しました。

 

イ 最高裁平成元年6月6日判決

この事案は、従業員がマイカーで工事現場から会社の寮に帰る途中に事故を起こしたものです。

従業員が通勤でマイカーを利用することは禁止されていましたが、会社は、この従業員がマイカーで工事現場と会社の寮を往復していることを把握しながら黙認しており、会社の社屋の隣の駐車場も使用させていました。

このような事情のもとで、最高裁判所は、会社は、従業員のマイカーの運行につき直接または間接に指揮監督をなしうる地位にあり、社会通念上もその運行が社会に害悪をもたらさないよう監視、監督すべき立場にあつたと言え、マイカーが寮から作業現場への通勤手段として利用されることにより事実上利益を得ていたとして、被害者に対し自賠法3条に基づく損害賠償責任を負うと判断しました。

 

 

2  会社の責任が否定されたもの

 

ア 最高裁昭和52年9月22日判決

この事案は、自家用車を用いて自宅から工場へ出張した杭打機械の運転手が、帰宅時(自家用車を運転中)に事故を起こしたものです。

会社の就業規則では、従業員が通勤または出張の際に自家用車を利用することは禁止されており、自動車を利用する必要のあるときは直属の課長の許可を得るよう従業員に対する指示がなされていました。

しかし、この従業員は、会社の許可を得ることなく、自家用車で主張先へ赴き、自家用車で移動中に事故を起こしました。

最高裁判所は、会社が従業員に対し出張につき自家用車の利用を許容していたことを認めるべき事情のない本件においては、従業員が出張のために自家用車を運転したことをもって、会社の業務の執行にあたるということはできず、出張からの帰途に惹起された本件事故当時における従業員の運転行為もまた会社の業務の執行にあたらないと判示して、会社の被害者に対する賠償責任を否定しました。

 

イ 東京地裁平成16年3月24日判決

この事案は、鳶作業に従事する従業員が、他の従業員と駅で合流し、仕事場である工事現場に自家用車で向かっている途中に事故を起こした事案です。

この会社では、従業員が工事現場への通勤に自動車を利用しようとする場合には、工事用車両届、通勤車輌運行ルート、任意保険証書の写し等を会社に提出し、許可を得なければならないとされていました。

しかしながら、従業員は会社に届出をせず許可も得ずに自家用車で工事現場に向かい、事故を起こしました。

裁判所は、この会社では従業員が自分の自動車で工事現場に行き来することは原則として禁止されており、自家用車を使用する場合には会社の許可を必要とする旨定められていたこと、自家用車使用を禁止しながら他方でこれを容認していたといえるような事情があるとも認められないことを指摘し、会社の被害者に対する賠償責任を否定しました。

 

6 判断の傾向

ご紹介した裁判所の判断の傾向を踏まえると、まず、

 会社が従業員にマイカー通勤を認めている場合、基本的に会社の被害者に対する賠償責任が肯定される可能性が高い 

と言えます。

 

会社が形式上は(就業規則などの上では)マイカー通勤を禁止していたとしても、

 従業員がマイカー通勤していることを知りながら黙認していたような場合 

会社の賠償責任が認められる可能性が高くなります。

 

会社が規定上もマイカー通勤を禁止し、マイカー通勤を知りながら黙認していたといった事情も認められない場合、会社の賠償責任は否定される傾向にあります。

 

7 まとめ

従業員がマイカー通勤中に事故を起こした場合の会社の責任について、述べてきました。

 

会社としては、マイカー通勤を認めない場合には、

 就業規則などにマイカー通勤を認めない旨を明記 した上で、

従業員が(許可なく)マイカー通勤をしていることを把握した場合には、

 マイカー通勤をやめるよう従業員を指導する といった対応が必要となります。

 

規定上は禁止していても、マイカーを使って通勤していることを知りながら放置していた場合、

マイカー通勤を黙認していたとして賠償責任を負う可能性があるからです。

 

マイカー通勤を認めている場合、従業員が通勤中に事故を起こした場合には

会社にも被害者に対する賠償責任が生じる可能性が高いです。

 

したがって、会社としては、 従業員が任意保険に加入しているかどうかを確認し、加入していなければ加入を促す 必要があるでしょう。

 

マイカー通勤に関する就業規則の整備などでお困りの方は、顧問弁護士などの弁護士にご相談下さい。

2025年02月18日 | Posted in お役立ちブログ, 企業法務のお役立ちブログ, 臼井元規の記事一覧 | | Comments Closed 

関連記事