代表取締役等住所非表示措置について
1 はじめに
令和6年4月16日、商業登記規則等の一部を改正する省令が定められ、「代表取締役等住所非表示措置」制度が創設されました。改正省令は令和6年10月1日から施行されており、すでに同制度の運用が開始されています。
今回は、「代表取締役等住所非表示措置」の概要について、解説します。
2 代表取締役等の住所の登記について
会社法の規定に基づき、株式会社の代表取締役や代表執行役又は代表清算人(以下「代表取締役等」といいます)は、住所を登記しなければならないこととされています(会社法911条3項14号)。
一方、株式会社の登記事項証明書は、手数料を支払えば誰でも取得することができます。そのため、住所を公開することへの抵抗感から起業を躊躇したり、ストーカー等の被害や過度な営業行為を誘発したりといったことが懸念されていました。
3 代表取締役等住所非表示措置の創設
上記のような懸念を踏まえて創設されたのが、代表取締役等住所非表示措置です。
これは、一定の要件の下、株式会社の代表取締役等の住所の一部を登記事項証明書や登記事項要約書、登記情報提供サービス(以下「登記事項証明書等」といいます)に表示しないこととする措置です(改正商業登記規則31条の3)。
この制度の趣旨は、代表取締役等のプライバシーの保護を図り、誰もが安心して起業することができるようにすることにあるとされています。
4 代表取締役等住所非表示措置が講じられた場合の登記事項の表示
この措置が講じられた場合、登記事項証明書等において、住所は最小行政区画までしか記載されないこととなります。
法務省が公開している登記事項の表示のイメージは、以下のとおりです。
5 代表取締役等住所非表示措置の要件
(1)登記申請と同時に申し出ること
代表取締役等住所非表示措置の申出は、設立の登記や代表取締役等の就任登記、代表取締役等の住所移転による変更の登記など、代表取締役等の住所が登記されることとなる登記の申請と同時に、登記官に申し出ることで、行うことができます。
代表取締役の住所移転の登記の申請と併せて申出をする場合の例として、法務省から以下のものが公開されています。
https://www.moj.go.jp/content/001422328.pdf
(2)所定の書面を添付すること
代表取締役等住所非表示措置の申出に当たり、上場会社である株式会社と、上場会社以外の株式会社とで、添付が必要な書類が異なります。
ア 上場会社である株式会社の場合
株式会社の株式が上場されていることを認めるに足りる書面を添付します。
例えば、当該会社の上場に係る情報が掲載された金融商品取引所のホームページなどが該当します。
イ 上場会社以外の株式会社
次の➀から➂の書類を添付する必要があります(なお、すでに代表取締役等住所非表示措置が講じられている場合、②の書類のみで足ります)。
➀株式会社の実在性を証する書面
株式会社が受取人として記載された配達証明書、または、登記の申請を受任した資格者代理人(弁護士または司法書士)が会社の本店所在地における実在を確認した結果を記載した書面が該当します。
➁代表取締役等の住所等を証する書面
代表取締役等の氏名及び住所が記載されている住民票の写しなどが該当します。
➂株式会社の実質的支配者の本人特定事項を証する書面
司法書士が法令に基づき確認を行った結果を記録した書面の写しなどが該当します。
6 代表取締役等住所非表示措置の終了
以下の場合に、代表取締役等住所非表示措置は終了します。
(1)代表取締役等住所非表示措置を希望しない旨の申出があった場合
なお、代表取締役等住所非表示措置を希望しない旨の申出は、登記申請と同時である必要はありません。
(2)株式会社の本店所在場所における実在性が認められない場合
(3)上場会社でなくなったと認められる場合(上場会社の場合に限ります)
(4)閉鎖された登記記録について復活すべき事由があると認められる場合(清算決了の登記をした場合)
7 留意点
代表取締役等住所が講じられた場合、登記事項証明書等によって会社代表者の住所 を証明することができなくなるため、金融機関から融資を受けるに当たって不都合が生じたり、不動産取引に当たって必要な書類が増えたりするなど、一定の影響が生じる可能性があります。
制度の利用を検討するに当たっては、そのような影響があり得ることを考慮する必要があります。
また、代表取締役等住所非表示措置が講じられた場合であっても、会社法に規定する登記義務が免除されるわけではないため、代表取締役等の住所に変更が生じた場合、その旨の登記を申請する必要があります(会社法915条1項)。
この場合の申請期限は、住所変更があった日から2週間以内とされており、変更登記申請を怠ると制裁(100万円以下の過料)の対象となりますので(会社法976条1号)、変更登記申請手続きを怠らないようご留意ください。
1990年愛知県生まれ。
交通事故に注力している。
『被害に遭った方の気持ちに寄り添う』ことをモットーとしており、
適切なスピード感を持って,相談者の悩みに誠実に応えるようにしている。