【お役立ちブログ】下請法改正、取適法
1 はじめに
令和8年は、企業法務に関する法律改正が目白押しですが、今回は、 下請法の改正 について、解説いたします。
下請法は、前回の主要な改正から約20年が経過しているため、現在の経済社会状況に即した改正の必要があると言われていました。
また、昨今の物価上昇に伴い、「物価上昇を上回る賃上げ」を実現するためには、各事業者において賃上げの原資を確保する必要があります。各事業者が適切な価格転嫁を行うためには、受注者に負担を押し付ける商慣習を改める必要があるとして、下請法改正の機運が高まりました。
一方で、「下請」という用語は、発注者と受注者が対等な関係ではないという語感を与えるとの指摘があるとともに、発注者である大企業の側でも、「下請」という用語が使われなくなりつつあります。
そこで、下請法(下請代金支払遅延等防止法)は、いくつかの法改正とともに、 取適法(製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律) に生まれ変わりました。
法律の名前のみならず、 「下請代金」は「製造委託等代金」 に、 「親事業者」は「委託事業者」 に、 「下請事業者」は「中小受託事業者」 に名称変更されています。
2 適用対象の拡大
従前は、委託者と受託者の資本金のみに着目して、下請法の適用の有無が判断されていました(資本基準)。
そのため、事業規模は大きいものの資本金が少額である事業者や、下請法が定める基準以下に減資した事業者は、下請法の対象となりませんでした。下請法の適用を逃れるため、受注者に増資を求める発注者もあったようです。
そこで、法改正に伴い、従来の資本基準に加え、 従業員数の基準が追加され、規制及び保護の対象が拡大されました。
具体的には、製造委託、修理委託、情報成果物作成委託(プログラムの作成に係るものに限る)、役務提供委託(運送、物品の倉庫保管、情報処理に係るものに限る)、特定運送委託の取引の場合は、従業員数300人超の事業者が、従業員数300人以下の事業者に委託する場合にも取適法が適用されます。
また、情報成果物作成委託(プログラムの作成に係るものを除く)、役務提供委託(運送、物品の倉庫保管、情報処理に係るものを除く)の取引の場合は、従業員数100人超の事業者が、従業員数100人以下の事業者に委託する場合にも取適法が適用されます。
3 特定運送委託の追加
本法が適用される対象取引に「特定運送委託」が追加されました。
法改正前は、発荷主から元請運送事業者への委託は、下請法の適用外でした。例えば、家具小売業者が、取引先に対し、販売する家具を引渡す際に、その家具の運送を物流事業者に委託する場合、下請法の適用はありませんでした。
ですが、立場の弱い物流事業者が、荷役や荷待ちを無償で行わされているなどの実態がありますので、物流事業者の立場を保護する必要があるとして法改正が行われました。
令和8年1月1日以降、 荷主から物流事業者への運送委託も、特定運送委託として、取適法が適用されるようになりました ので、注意が必要です。
4 禁止行為の追加
昨今の物価高でコストが上昇している中で、委託者が、受託者と協議することなく価格を据え置いたり、コスト上昇に見合わない価格を一方的に決めたりすることは、上昇したコストの価格転嫁が適切になされているとは言えないでしょう。
そこで、委託者と受託者との間で適切な価格転嫁が行われるように、協議に応じない一方的な代金決定も禁止されることになりました。
例えば、
①受託者から価格協議の求めがあったにもかかわらず、これを無視して協議に応じないこと や、 ②委託者が代金の引き下げを要請する際、受託者から説明を求められたにもかかわらず、必要な説明を行わないことなどが、一方的な代金決定となり禁止されます。
5 手形払等の禁止
手形払が禁止されるとともに、その他の支払手段(電子記録債権等)について、支払期日までに代金相当額満額を得ることが困難なものが禁止されました。
支払い手段として手形を用いた場合、受託者は、手形を現金化するまでの間、資金を得ることができません。
そのため、手形払いという商習慣は、委託者が受託者に対して、資金繰りに係る負担を求めるものと言えます。
そこで、取適法が適用される取引においては、 手形払が禁止されるとともに、その他の支払手段(電子記録債権、ファクタリング)についても、支払期日までに代金相当額満額を得ることが困難なものが禁止されることになりました。
代金の決済方法として、手形を用いている会社は、特に注意が必要です。
6 面的執行の強化
中小企業庁と公正取引委員会に加えて、事業所管省庁にも、指導・助言権限が付与されました。
事業所管省庁が、指導及び助言ができるようになることで、実態に即した指導や助言が可能になると思われます。
7 その他の改正点
その他にも数点の法改正があります。
まず、 製造委託の対象商品に金型以外の型等が追加されました。
専ら製品の作成のために用いられる木型、治具等についても、金型と同様に製造委託の対象物となります。
また、委託者の書面交付義務について、受託者の承諾の有無にかかわらず、 電子メールなどの電磁的方法で行うことが可能になりました。
さらに、法改正以前は、下請代金の支払遅延について、親事業者に対し、その下請代金を支払うよう勧告するとともに、遅延利息を支払うよう勧告することとされていましたが、減額については、このような規定はありませんでした。
そこで、今回の改正では、 遅延利息の対象に減額を追加し、代金の額を減じた場合、起算日から60日を経過した日から実際に支払をする日までの期間について、遅延利息を支払わなければならないものとされました。
8 最後に
これまでは、取引先の資本金を確認すれば下請法の適用の有無が判断できましたが、法改正後は、取引先の従業員数も確認し、取適法の適用の有無を判断する必要が生じます。
そして、取適法が適用された場合、委託事業者には、4つの義務が課せられ、11の遵守事項を守る必要があります。
すなわち、委託事業者には、
②書類等を作成・保存する義務
③支払期日を定める義務
④遅延利息を支払う義務
が生じます。
また、委託事業者は、
が禁止されます。
これらの義務や遵守事項について、あるいは取適法の適用の有無について、判断に迷うこともあろうかと思います。取適法の適用の有無等について、疑問が生じましたら、お気軽に顧問弁護士等にご相談ください。
弁護士 太田圭一 >>プロフィール詳細
1981年滋賀県生まれ。
離婚問題や相続問題に注力している。
悩みながら法律事務所を訪れる方の、悩み苦しみに共感し、その思いを受け止められるように努めています。








