【企業法務】36協定違反の罰則その他の制裁
1 36協定について
これまで4回にわたり、36協定について説明して来ました。
36協定とは、労働者(従業員)に残業(法定時間外労働)をさせる場合、労使間の協定で結ばなければならない文書による協定のことです。
すなわち、雇い主は従業員(労働者)に対し、1週間では40時間を超えて労働させてはならず、1日については8時間を超えて労働させてはなりません(労働基準法32条)(以下、単に「法32条」とも表記します)。
そして、これを超えて働かせた場合には、刑事処罰を受けることになっております(6か月以下の懲役刑か30万円以下の罰金刑)。
ただし、36協定を結んで、それを労働基準監督署に届出した場合に、雇い主は、その協定時間の範囲内では、時間外労働をさせることができるのです。
前回まで、
(1)限度時間(36協定を結んで働かせることができる上限の時間について)、
(2)適用除外される3つのケース(18歳未満の労働者や妊産婦等から請求があった場合は36協定を結んでも時間外労働をさせられない)、
(3)作成と届出の手続き・方法、
(4)36協定の記載内容詳細、
についてそれぞれご説明しました。
今回は、36協定を結ばずに残業をさせた場合の罰則やリスク(制裁)について、説明したいと思います。
2 刑事罰と民事上の制裁及びその他の制裁(企業名の公表)
違反した場合の罰則やリスクとしては、
(1)刑事罰、
(2)民事上の制裁、
(3)企業名の公表
という制裁、があります。順次説明します。
3 刑事罰
36協定を結んで届出をすることなく、1日8時間以上働かせたり、1週間に40時間以上働かせた場合は、法32条違反となり、6月以下の懲役刑か30万円以下の罰金刑になります。
協定した制限時間を超えて働かせた場合も同じです。
また、36協定を結んで届出をしてあっても、時間外労働をさせてその割増賃金を支払わなかった場合は、法37条違反となり、同じ刑罰が定められています。
刑事罰が定められている、ということは、窃盗罪や傷害罪を犯した者と同じように、取り調べを受け、検察庁に送致されて、刑事裁判になる、ということです。
普通の刑事事件の捜査や取り調べは、警察署の刑事がしますが、労働関係の法令違反の場合は、労働基準監督官(労基署職員)が捜査をし、取り調べをし、検察庁に送致します。
検察庁に送致する場合には、身柄拘束(逮捕)をして送致する場合と、身柄拘束せずに送致する場合(書類送検と言います)とがあります。
通常の労働基準法違反の場合は、ほとんどが書類送検ですが、書類送検の際に、マスコミ等に公表される場合もあります。
そして、検察庁で捜査した結果、罰金刑相当と判断されれば略式起訴となり、公開裁判までは開かれずに終わりますが、悪質と判断されると、正式起訴となり、公開の刑事裁判となる場合もありますので、注意が必要です。
また、まれにではありますが、長時間の時間外労働をさせたとして、逮捕された事例もあります。
たとえば、長距離トラックの運送業を営む関東地方のある会社について、常態化した長時間労働によって、運転手が過労から重大事故を起こした事案で(平成28年3月)、その会社の取締役兼統括運行管理者兼配車係が逮捕されています。
さらに、36協定違反の例ではありませんが、東海地方の会社の社長は、外国人労働者に労働基準法に違反した賃金しか支払っていなかったとして、労働基準監督署に逮捕されています(平成28年3月)。
このような事案が発生しますと、会社名が報道されますので、会社へのダメージは甚大です。
4 民事責任
長時間の時間外労働をさせることで、労働者が過労死したり、うつ状態になって自殺する事件がしばしば発生しています。
そして、これらについては、長時間労働との因果関係が認められれば、労災となり、監督署からの労災給付に加えて、会社に対する損害賠償請求がなされる事案が発生しております。
死亡事案であれば、数千万円から1億を超えるような賠償金が認められることになりかねません。
また、このような事案については、やはりマスコミ報道されて、会社名が大きく報道され、会社に大きな損害をもたらすこともあります。
5 企業名の公表制度
上記のとおり、刑事事件や民事事件になった場合にマスコミ報道されるのが通常ですが、そのような重大事案でなくても、一定の長時間労働が疑われるようなケース等では、監督署の指導が入り、その結果が公表されることになっております。
当該監督指導の目安としては、各種情報から時間外・休日労働数が1か月当たり80時間を超えていると考えられる事業場や、長時間にわたる過重な労働による過労死等に係る労災請求が行われた事業場が対象です。
これは、仮にマスコミ報道がされなくても、厚生労働省ホームページに公表されることになっておりますので、注意が必要です。
交通事故と企業法務に注力している。
交通事故は,年間相談件数104件(受任件数75件)(※直近1年間)の豊富な経験を持つ。
後遺障害の等級アップについても、多数の実績を持つ。
企業法務分野に取り組む際には、『経営者のパートナーとして会社を良くしていく』という姿勢を一貫しており、企業の『考え方』を共有し、寄り添うことを大切にしている。