2020年07月28日

【企業法務】部下は上司に対してパワハラできるのか?~パワハラの事例から学ぶいろんなパワハラのシーン~

1 はじめに


パワハラという言葉を聞いて、皆様が思い浮かべるシーンは、上司が部下を怒鳴りつけたり、社長が従業員に厳しいノルマを課して、目標が達成できなかった場合に、重い処分を与えたりするというものでしょう。
すなわち、会社という組織の中で、役職が上の者が、下の者に対して、行うものだけがパワハラだと思いがちです。

確かに、そのような類型のパワハラは、昔からあるパワハラの典型例と言っていいでしょう。
しかし、時代の変化に伴い、組織上の立場が下の者(部下)からの行為であっても、職場内の優位性を背景になされる場合には、パワハラになると考えられるようになりました。また、同僚からのパワハラや女性からのパワハラも認められるようになりました。

職場内の力関係を背景になされるパワハラですが、この力関係というものには、会社組織の上下関係以外にも、様々な要素が含まれるからです。
ですから、管理職や役員に限らず、どのような立場にあったとしても、今回のパワハラ防止法施行を機に、自らの行動を省みることが大切だと思われます。

2 組織的に上の立場の者からのパワハラ


上司からのパワハラや社長等の役員からのパワハラは、組織上の上下関係をもとになされる典型的なものだと言えます。
部下を大声で怒鳴りつけたり、感情的になって叱責したり、無能呼ばわりしたり、給料泥棒と言ったりすることが、パワハラになりうることは当然ですが、人前で叱責することだけでもパワハラになりかねません。

従業員のことを考えず、過大なノルマを与え、長時間残業させるということも、パワハラと言われも仕方ありません。過大なノルマと長時間労働の結果、従業員が心身の健康を害してしまうようなことがあれば、会社としての責任問題にも発展してしまいます。

上司や役員は、従業員が、健康に職務に従事できるように配慮すべき立場ですので、パワハラと言われかねない言動には、人一倍気を付ける必要があります。従業員が、活き活きと働けるかどうかは、上司や役員の手腕にかかっていると言っても過言ではありません。

3 部下からのパワハラ


組織上、上司と部下という関係にあっても、職場内の実際の力関係が、逆転してしまうこともありえます。
例えば、パソコンやインターネット等の知識に関しては、上司よりも部下の方が詳しいということもあります。

そこで、パソコンが苦手な上司に情報共有をしない、資料を全てクラウド上にアップし、使い方を教えないということは、パソコン知識の有無という事実上の力を背景に、組織上の上司に嫌がらせをするということになりますので、パワハラとなり得ます。

そもそも、上司を無視する、「こんなことも分からないのですね。」、「こんなんでよく課長になれましたね。」等と言って上司を侮辱中傷する、上司の指示に従わないといったことは、パワハラになるかどうか以前の問題として、組織としての業務遂行に支障を生じさせかねませんので、気を付けるべきです。

4 女性からのパワハラ


女性からのパワハラというのも、あります。
一例を挙げると、女性の多い職場においては、少数派の男性の立場は弱くなりがちですが、そのような職場で、女性全員が、特定の男性のみを無視するということは、職場環境の悪化を招きますから、パワハラと言えます。

また、女性の社会進出に伴い、管理職に就く女性が増えていることは、好ましい傾向です。しかしながら、女性上司だからパワハラをしないと言い切ることもできません。

男性の部下に向かって、「男のくせに・・。」とか、「こんなこともできないの。」等と言ってはいないでしょうか。男性の部下に対して、単純な力仕事を命じた後、「●●さんは、他の仕事はできないのに、力だけはあるのよね。」と言うことも、たとえ冗談であったとしても、避けるべきでしょう。

5 派遣先の従業員から派遣従業員に対するパワハラ


派遣従業員は、どうしても弱い立場に立たされてしまいがちです。
派遣先の従業員の行為が、派遣従業員に対するパワハラにならないように、より一層の配慮が必要ではないでしょうか。

6 最後に


職場内においては、上司部下の関係以外にも、知識経験の有無、職務能力の程度等、どうしても、差が生じてしまうのは事実ですし、それが当然のことだとも言えます。
ですが、職場内において、互いに大事にし、尊重し合う関係ができていれば、そもそもパワハラは起こらないのではないでしょうか。

望ましい企業風土や職場環境の維持、構築に努めること、上の立場の者が自らの行動を律すること、従業員教育を徹底すること、これらの企業努力そのものが、企業価値を高めるとともに、パワハラ防止にも繋がります。
パワハラという問題は起こさないでおこう、うちの職場でパワハラが起きたら困るなあ、果ては、パワハラにさえならなければ大丈夫だという考えは、少し残念な考えだとも思えます。

パワハラの撲滅は、一つの達成目標ではありますが、それがゴールではないからです。

従業員の誰もが、モチベーションを維持しつつ、のびのびと働くことができる職場環境の構築と、望ましい企業風土の醸成という大きな目標をもって、職場の誰もが、適切な努力を行うことができれば、その過程において、パワハラというマイナスの問題も淘汰できるものと考えられます。

 



執筆者プロフィール
弁護士紹介|太田 圭一弁護士 太田圭一 >>プロフィール詳細
1981年滋賀県生まれ。
離婚問題や相続問題に注力している。
悩みながら法律事務所を訪れる方の、悩み苦しみに共感し、その思いを受け止められるように努めています。

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