2025年07月17日

【お役立ちブログ】AIと著作権について

1 はじめに

途轍もない勢いでAIが進化しています。

世界にOpenAI社のChatGPTが華々しく登場してからというもの、様々な対話型の生成AI等の開発が進み、私たちの生活に直結するプロダクトになりました。

これまでAIと接点のなかった一般市民や企業にとって、かなり身近なものとして(そして、その性能に対する驚きや感動、幾らかの恐怖すら感じさせるものとして)迎え入れられています。

AIの進化は、他に類を見ない程の急激な変化を我々の生活にもたらす可能性を秘めていて、それは法律家の世界も同じです。

基本的な法律の知識だけであれば、もはや弁護士に尋ねるよりもAIに聞いた方が圧倒的に早く、簡便です。

私自身、リサーチや情報の整理には積極的にAIを利用しておりますが、その優秀さには日々驚嘆しています。

クリエイターやコンテンツビジネス関係者はもちろんのこと、業種関係なくビジネスにおけるAIの利用は急速に広がっていくでしょう。

 

2 著作権法上の議論・問題点について

ところで、生成AIに写真を読み込ませて、 「ジブリ風に加工して」 といった指示(これを「プロンプト」といいます)を入力すると、文字通り、かなりジブリ風な写真が生成されます。

この行為が著作権者(スタジオジブリ)の著作権を侵害しないのか、といったトピックが連日ニュース等で取り上げられています。

自分や家族等がジブリ作品風になるなんてファンには夢のような話ですから、多くの人が試したのではないでしょうか。

それだけに、 これは果たして良いことなのか… と疑問を感じた方もいるものと思います。

また、ビジネスに利用する場面においては、AIが生成したイラスト等を広告に利用したいときに、誰かの権利を侵害しないように気をつけるべき点なども気になるところです。

現時点において、生成AIと著作権の関係における大論点は、以下の3つです。

 

論点
①著作物(イラスト等)をAIの学習のために、複製等することが許されるのか
②AIにイラスト等を生成させることが、著作権侵害にあたるのか
③AIが生成するイラスト等は著作権法上の著作物なのか

 

今回は、これについて、文化庁が整理しているところの概要をお伝えしたいと思います。

3 ①著作物をAIの学習のために、複製等することが許されるのか

著作権法第30条の4にこのような規定があります。

著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない

そして、AIが著作物を複製等して学習することは、「二 情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。第四十七条の五第一項第二号において同じ。)の用に供する場合」に該当し、著作権侵害にはならないことになります。

 「著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には」というのがミソ で、裏から言えば、 この「享受目的」が認められる場合や「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」には、同条の適用はなく、著作権侵害になるわけです。 

例えば、 ある特定の著作物の創作的表現を模倣した類似物を生成させることを目的として、意図的に特定の作品群をAIに学習させるような行為 は、享受目的があると言えるため、 著作権侵害の可能性があります。 

 

4 ②AIにイラスト等を生成させることが、著作権侵害にあたるのか

そもそも、著作権法上、「表現」ではない「アイデア」は、著作権法上保護されません。

そこまで保護してしまうと、新たな創作、表現活動を阻害してしまう、むしろ自由に利用できる方が表現の多様性等が確保され、文化の発展に寄与するものと考えられるからです。

この「表現」と「アイデア」の区別はなかなか難しいところがあり個別具体的な事情によりますが、 「ジブリ風」といった「作風」に過ぎないものに関しては、「アイデア」であり著作権法上保護されないと整理されています。 

よって、例えば、自分が撮影した家族写真をAIに読み込ませ、「ジブリ風に加工せよ」といったプロンプトを入力して、そのとおり「ジブリ風」イラストが生成AIによって複製等されたとしても、著作権を侵害しないのです(この結論に違和感を持つ方は多いのかもしれません)。

では、どのような場合でも著作権侵害にならないかというと、もちろんそうではありません。

例えば、他人の著作物である特定の画像を読み込ませて、別の画像を生成させた場合には、著作権侵害が認められる可能性があります。

実は、この問題は著作権を侵害するか否かは、 「類似性」  「依拠性」 という2要件を満たすか、というAIを利用せずに制作された場合と同じ判断基準が用いられます。

先の例のように、既存著作物である画像そのものを読み込ませたり、既存著作物のタイトル等の固有名詞を入力したりして画像を生成させること(Image to Image)は、上記要件を満たし、著作権侵害に該当する危険があると考えられています(現在、このような方法によってAIに指示したとしても、AI自体が権利侵害の可能性を検知して拒否することが多いようです)。

 

5 ③AIが生成するイラスト等は著作権法上の著作物なのか

著作権法第2条第1項第1号で、「著作物」とは「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義されています。

 この定義からすると、AIが自律的に生成したものは、「思想又は感情を創作的に表現したもの」とはいえず、著作物に該当しません。 

例えば、AI利用者がプロンプト等の指示を何ら与えず(完全にランダムで)、又はごく簡単な指示(「猫の画像を生成して」など)のみを与えて、AIに画像等を生成させた場合です。

これに対して、人が思想又は感情を創作的に表現するための「道具」としてAIを使用したと認められる場合には、著作物に該当し、AIの利用者が著作者になると考えられています。

そして、この「道具」として利用したかどうか、というのは 「創作意図」  「創作的意図」 があるかによって判断されます。

「創作意図」は、AI利用者に「AIを利用して自らの個性の表れとみられる何らかの表現を有するものを作る」という程度の意図があれば足りると考えられていますが、「創作的寄与」は、指示・入力の分量、生成の試行回数、複数の生成物からの選択の有無等の事情がどの程度積み重なっているかを総合的に考慮して判断します。

 この、③AI生成物が著作物となるかという問題と、②AIによる生成物の生成や利用が既存著作物の著作権侵害となるかの問題は、それぞれ別の問題だということに注意が必要です。 

 

6 最後に

AIは、まだまだ世に生まれたばかりの技術です。

これから更に成長し、人類の認知を超えるような、圧倒的な能力を備える可能性を秘めていますから、今後、人類がAIとどう向き合っていくかは全世界規模の重要課題です。

その一端の、いわば急先鋒に立っているのが、この著作権の問題と言って良いと思います。

特にクリエイターの方々はAIによって自分の著作物の価値が毀損されてしまうのではといった憂慮を抱いているものと思います。

これからも更に議論が広がり、深まっていく分野ですので、その時期に応じた適切な知識に触れておくことが重要です。

 企業における利用場面では、法律家の支援が必要なこともあると思いますので、顧問弁護士等の弁護士に、お気軽にご相談ください。 

(本稿の論点につき、より詳しくは、文化庁発表の令和6年3月15日「AIと著作権に関する考え方について」をご参照ください。
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/pdf/94037901_01.pdf)

執筆者プロフィール
       弁護士 笠谷洵史 >>プロフィール詳細
2025年07月17日 | Posted in お役立ちブログ, 個人の法律相談のお役立ちブログ, 笠谷洵史の記事一覧 | | Comments Closed 

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