2025年11月19日

【お役立ちブログ】「ストレスチェック」の義務対象拡大について

1 はじめに

現在、労働者の数が50名以上の事業所においては、毎年1回、原則として全ての労働者(契約期間が1年未満の労働者など、対象にならない労働者もあります)を対象に、「ストレスチェック」を実施することが義務付けられています(労働安全衛生法66条の10)。

労働安全衛生法では「心理的な負担の程度を把握するための検査等」という表現ですが、一般的には 「ストレスチェック」 等と呼ばれています。

このコラムでは「ストレスチェック」と呼称します。

令和7年5月14日、労働者の数が50名未満の事業所においてもストレスチェックを実施するよう義務付けることを内容とする改正労働安全衛生法が可決・成立しました。改正法は遅くとも令和10年5月までに施行されます。

今回は、ストレスチェックの概要と、改正法の内容などについて、解説します。

 

2 ストレスチェックの概要(毎年実施する必要があります)

1 ストレスチェックの実施方法の決定

前提として、事業所ごとにストレスチェックの実施方法を決める必要があります。

 決めた内容は、社内規程として明文化し、全ての労働者に周知するのが望ましいでしょう。 

実施方法を決める際には、ストレスチェックの実施者や面接指導(ストレスチェックの結果、医師の面談が必要と判断された人に対して行うもの)を担当する医師などを決めます。

ストレスチェックの実施者は、医師・保健師・厚生労働大臣の定める研修を受けた看護師又は精神保健福祉士の中から選ぶ必要があります。

また、ストレスチェックの実施者と面接指導担当の医師は、同じ医師が担当しても問題ありません。

 

2 質問の実施・記入・回収

ストレスチェックは、労働者に所定の質問に回答してもらい、その結果をストレスチェックの実施者(医師や保健師など)に評価してもらって、労働者が高ストレス抱えているかどうかをチェックするものです。

労働者に対する質問は、以下の種類の質問が含まれていれば特に指定はありませんが、厚生労働省が推奨する57項目の質問票があり、これを用いることもできます。

1 ストレスの原因に関する質問項目
2 ストレスによる心身の自覚症状に関する質問項目
3 労働者に対する周囲のサポートに関する質問項目

※厚労省が推奨する質問票は、こちらからご覧頂けます。

http://stress-check_j.pdf

 

また、ITシステムを利用して、オンラインで実施することもできます。

厚労省が「ストレスチェック実施プログラム」を無料で公開しており、その中で、オンライン上でストレスチェックを実施できるアプリなどが紹介されています。

https://stresscheck.mhlw.go.jp/

 

3 実施者による評価・判断

労働者が質問票に記入したり、オンライン上で質問に回答したら、当該回答を実施者(医師や保健師など)に渡し、実施者が労働者の回答をチェックして、ストレスの程度を評価します。

そして、医師の面接指導が必要となる程度に高ストレスを抱えている労働者を選別します。

 

4 結果の通知
 実施者による回答の評価・判断の結果は、実施者から直接本人(労働者)に通知されます。 

結果は事業所(企業)には返ってきません。

事業所が個々の労働者のストレスチェックの結果を入手するには、 本人(労働者)の同意が必要 です。

 

5 労働者による申出

「医師による面接指導が必要」と判断された労働者から申出があった場合、事業所は、面接指導担当の医師に依頼して、当該労働者の面接指導を実施することになります。

労働者の申出は、結果が通知されてから1か月以内に行う必要があり、医師による面接指導は、労働者からの申出があってから 1か月以内 に行う必要があります。

 

6 医師からの意見聴取・必要な措置の実施

面接指導後、面接を実施した医師から、就業上の措置の必要性の有無やその内容について意見を聴き、医師の意見を踏まえて必要な措置(例えば、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等)を実施します。

 

7 労働基準監督署への報告

事業所は、ストレスチェックの実施後、所轄の労働基準監督署に、所定の報告書(心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書」)を提出しなければなりません。

報告書の書式はこちらからご覧頂けます。
https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/001514475.pdf

 

8 事業者の禁止行為(不利益取り扱いの禁止)

事業者が以下のことを理由に労働者に対して不利益な取り扱いをすることは、禁止されています(労働安全衛生法に明文の禁止規定があるものと、解釈によって禁止されると考えられているものがあります)。

医師による面接指導を受けたいとの申出を行ったこと
医師による面接指導を受けたいとの申出を行わないこと
ストレスチェックを受けないこと
ストレスチェックの結果を事業者へ提供することに同意しないこと

 

3 小規模事業所への適用拡大と配慮措置

ストレスチェックは平成27年12月から導入されたもので、労働者の数が50名以上の事業所については義務となった一方、労働者の数が50名未満の事業所については努力義務に止まっていました。

そのような中、令和7年5月14日、 労働者の数が50名未満の事業所を含む全ての事業所においてストレスチェックを実施することを義務付ける内容 で、労働安全衛生法が改正され、改正された法律は遅くとも 令和10年5月まで に施行されます。

労働者の数が50名未満の事業所については、規模が小さい事業所も多く、労働者50名以上の事業所と同様のストレスチェックを実施することは難しいという指摘があります。

そのため、厚生労働省は、 「小規模事業場ストレスチェック実施マニュアル」 を作成する予定で、当該マニュアルを作成するためのワーキンググループが立ち上げられました。

厚労省の発表によると、令和8年度中には「小規模事業場ストレスチェック実施マニュアル」が完成し、公表される予定です。

 

4 おわりに

ストレスチェックについて、解説してきました。

労働者の数が50名以上の事業所では、すでに実施されていると思いますが、50名未満の事業所も、遅くとも令和10年からは実施しなければならなくなります。

小規模事業場向けのストレスチェック実施マニュアルは、作成され次第、公表される予定ですので、関係する方は、マニュアルの内容を確認し、体制作りを進めて頂く必要があると思われます。

ストレスチェック制度のことでお困りのことがあれば、顧問弁護士などの弁護士にご相談下さい。

 

執筆者プロフィール
弁護士紹介|臼井 元規弁護士 臼井元規 >>プロフィール詳細
1990年愛知県生まれ。
交通事故に注力している。
『被害に遭った方の気持ちに寄り添う』ことをモットーとしており、
適切なスピード感を持って,相談者の悩みに誠実に応えるようにしている。

2025年11月19日 | Posted in お役立ちブログ, 臼井元規の記事一覧 | | Comments Closed 

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