令和4年10月施行 プロバイダ責任制限法の改正について
プロバイダ責任制限法は、ネット上の被害者の救済と、表現の自由などの確保とのバランスをとることを目的とする法律です。インターネットが普及してくると、匿名で誹謗中傷をする投稿が社会問題となってきました。そこで、インターネット環境を改善するため、平成13年にプロバイダ責任制限法が制定されて、発信者情報開示請求権が認められたのです。
しかしその後、法律ができた時には想定されていなかったインターネットサービスが普及してくると、いくつもの課題が指摘されるようになりました。
今回は、社会状況に合わせて保護が拡大し、より簡単な情報開示手続をつくるという改正がされましたので、ご紹介したいと思います。
1 改正のポイントその1:新たな裁判手続
ネット上で誹謗中傷の投稿がされた場合、発信者(投稿者)の特定のために裁判をするのであれば、2回の裁判手続が必要です。これは、まずたどることのできる投稿がされたサイトの運営に関与しているプロバイダから(1回目)、投稿をした発信者(投稿者)が通信に利用したプロバイダをたどって(2回目)、発信者(投稿者)にたどりつかなければならないためです。
さらに、発信者(投稿者)を特定した後に損害賠償などを請求する裁判手続も含めると、被害者が加害者に損害賠償などを請求するためには、合計で3度の裁判手続が必要とされていました。
このように、これまでの制度では、被害者にとって時間とコストの負担が大きい上、開示に時間がかかっているうちに記録が消去されてしまうなどで、結局、発信者(投稿者)の特定ができなくなってしまうことがある、といった課題がありました。
今回の改正では、発信者(投稿者)の情報の開示手続を、より簡単により速くできるように、発信者(投稿者)情報の開示請求を、1つの手続で行うことができる、新たな裁判手続がつくられました(プロバイダ責任制限法8条から16条)。おおまかな流れはこのようになっています。
①裁判所に、サイトの運営に関わるプロバイダに対する発信者情報開示命令の申立てをする
②サイトの運営に関わるプロバイダが有する発信者(投稿者)が通信に利用したプロバイダの名称の提供を求める
③②で提供された発信者(投稿者)が通信に利用したプロバイダの情報をもとに、発信者(投稿者)が通信に利用したプロバイダに対する発信者情報開示命令の申立てを行う
→サイトの運営に関わるプロバイダが、発信者(投稿者)が通信に利用したプロバイダに対して、保有している発信者情報を直接提供
④開示命令の申立てが認められると、サイトの運営に関わるプロバイダと発信者(投稿者)が通信に利用したプロバイダの両方から情報(IPアドレス、発信者(投稿者)の氏名・住所など)が開示される
改正によって、このような新たな開示請求手続が新設されましたが、これまでどおりの開示請求手続もできる仕組みになっていますので、都合に合わせてどちらを選択することもできます。
2 改正のポイントその2: 開示範囲の見直し
上記でご説明してきたように、発信者を特定するために、サイトの運営に関わるプロバイダから一定の情報の提供を受ける必要があります。しかし、ログインをして利用するサイトの中には、そのサイトで投稿した時の情報を記録しておらずに、ログインした時の情報しか記録していないものがあります。
ところが、改正前の開示請求範囲は、誹謗中傷などの権利侵害に関する通信だというように定められていました。投稿そのものの情報ではなく、ログイン時の情報の開示請求については、これまでの裁判例上、個別の事案によって請求を認容したり請求を棄却したりもしており、開示請求ができるかどうかは事案によってかなり左右されていました。
今回の改正で、ログイン時の情報も開示対象とすることが明確化されました(プロバイダ責任制限法5条)。これにより、ログイン時の情報から、ログインのための通信経路をたどって、発信者を特定していくことが期待できます。
ただし、開示可能な範囲を広げすぎると、プライバシーを侵害するおそれなどが大きくなるため、ログイン時の情報については開示請求できるのが一定の場合に限定されていますから、注意が必要です。
今回はプロバイダ責任制限法の改正についてお話ししましたが、発信者情報開示の制度はかなり難しくてわかりにくいので、どうしたらいいかわからないところが多々あると思います。インターネット上の誹謗中傷などのトラブルがもしあれば、まずは顧問弁護士など弁護士に相談されることをおすすめします。