2021年03月24日

社員のメンタルヘルスと企業

今回はハラスメントに関連して,従業員のメンタルヘルスについて解説します。

 

1 メンタルヘルスの問題
 メンタルヘルスとは,WHOの定義によれば「自身の可能性を認識し、日常のストレスに対処でき、生産的かつ有益な仕事ができ、さらに自分が所属するコミュニティに貢献できる健康な状態」としていますが,おおまかには,文字通り心の健康のことととらえればよいようです。
 メンタルの不調によりあらわれる典型的な症状としては,うつ病や不眠症,アルコールなどの依存症が広く知られていますが,パニック障害などの聞きなれない心の病もこれによって引き起こります。その結果,働けなくなってしまったり,ひどい場合には,日常生活を送ることが難しくなったりもします。

 

2 メンタルヘルスに関する法整備
 これまでのコラムでみてきましたように,ハラスメントの対策については,法律の整備や裁判例が多く出たことなどで,企業の責任として一般化しつつあります。これに対しメンタルヘルスの問題は,近年になって法整備が本格化したように思います。
 実は1998年には,当時の労働省より,心の問題を含めた事業場の健康増進に関する指針が出されており,1999年には,労災の認定に関し,うつ病などの精神疾患について業務上の問題かどうかを判断するための指針が出されていました。その後,2014年に過労死等対策推進法で,業務ストレスによる精神障害を防ぐ対策をとることが行政や事業者の責務とされ,2015年の労働安全衛生法の改正で,50人以上の従業員のある事業主に対しストレスチェックが義務付けられました。
 これに伴って,精神障害を理由とする労災の申請また認定の件数も,年々増加しています。2000年頃は年間100件程度の申請だったようですが,2018年には年間の申請数が1800件を超え,認定された件数も500件前後にまで上っています。

 

3 メンタルヘルスと企業
 こうした法整備が進んだこともあって,メンタルヘルス対策は,従業員個人個人の問題というよりも,企業の労務管理の問題である,という認識が広がりつつあります。
近年,大手の広告業や製造業などの企業の社員の自殺が,労災にあたるとして報道され,大きく注目されたことがありました。このように,メンタルヘルスの問題が長時間労働やハラスメントなどの業務上のストレスにより引き起った場合には,企業は法的な責任を負うことになり,社会的にも大きく信用を落とすことになりかねませんから,メンタルヘルスは無視できない重要な経営問題となっているといえます。
 しかし,心は目に見えないものですので,メンタルヘルスの問題は気づきにくいものです。また,心の不調は,本人の性格の問題や人間関係のコミュニケーションの問題として片付けられたり,そもそも本人が限界を迎えるまで無自覚だったりと,対処が容易ではないこともわかっています。
このようなメンタルヘルスに問題を抱えた社員を,どうやって守るか,気持ちよく働いてもらえるか,頭を悩ませている企業の方は少なくありません。メンタルヘルスの問題については,企業で気を配っていく必要があります。次回は職場が原因でメンタルヘルスの不調が起こった場合についてお話ししていきます。

 

参考文献:「第4版 予防・解決 職場のパワハラセクハラメンタルヘルス」(水谷英夫 日本加除出版)


執筆者プロフィール
弁護士紹介|森長 大貴弁護士 森長大貴 >>プロフィール詳細
1987年福井県生まれ。
債務整理やインターネットトラブルに注力している。
相談に来られた方が叶えたい希望はどこにあるのか、弁護士である前に1人の人間として、その人の心に寄り添って共に考えることを心がけている。
2021年03月24日 | Posted in 未分類 | | Comments Closed 

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