2021年04月23日
労働組合法の「不当労働行為」とは?
1 はじめに
使用者の立場としては、社内に労働組合が形成されたり、労働者が地域労組に加入したりした場合、どのように対応すればよいか分からないこともあると思います。
しかしながら、労働組合と交渉するなかで、使用者が、法律で禁止されていることを、知らずに行ってしまうと、使用者にとって思わぬ不利益があるため注意する必要があります。
今回は、労働組合法で禁止されている不当労働行為について、見て行きたいと思います。
2 不当労働行為の種類
まず、労働組合法は、不当労働行為として、不利益取扱いの禁止、団体交渉拒否の禁止、支配介入の禁止、報復的取扱いの禁止の4類型を定めています。
不利益取扱いの禁止(労働組合法7条1号)とは、労働組合員であること、労働組合に加入しもしくはそれを結成しようとしたこと、労働組合の正当な行為をしたことを理由として、不利益な取り扱いをしてはならないということです。
不利益な取扱いの例としては、①労働者の解雇、降給、降格、昇給の停止等の経済的不利益、②仕事を与えなかったり、過酷な労働を命じる等の精神的な不利益、③意図的に遠隔地に配転したり、共働きの夫婦の一方だけを転勤させ別居を余儀なくさせたり、社宅の利用を認めない等の生活上の不利益、④組合の中心活動家を、「栄転」と称して組合員のいない職場に配転して組合活動を困難にさせる組合活動上の不利益があります。
次に、団体交渉拒否の禁止(労働組合法7条2号)とは、団体交渉をすることを正当な理由なく拒んではならないということです。
この団体交渉拒否の禁止について、東京地判平成元年9月22日「カール・ツアイス事件」は、「労働組合法7条2号は、使用者が団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むことを不当労働行為として禁止しているが、使用者が労働者の団体交渉権を尊重して誠意をもって団体交渉に当たったとは認められないような場合も、右規定により団体交渉の拒否として不当労働行為となると解するのが相当である。」と判断しています。
団体交渉の拒否の禁止には、使用者の誠実交渉義務が含まれていると考えられるため、使用者としては、形式的に団体交渉に出席して、交渉した形をとるだけでは不十分であり、誠意をもって労働組合と交渉しなければなりません。
この誠実交渉義務については、種々の論点がありますので、今回はそのような義務があると述べるにとどめて、次回以降、詳しく説明したいと思います。
支配介入の禁止(労働組合法7条3号)とは、労働者が労働組合を結成し、もしくは運営することを支配し、もしくはこれに介入すること、労働組合の運営のための経費の支払いにつき経理上の援助を与えることの禁止です。労働組合結成、運営に対する干渉行為や諸々の労働組合弱体化行為の禁止のことです。
例えば、労働者に対して組合への不加入や脱退を働きかける、組合を誹謗中傷する社内報を配布する、組合の集会を監視する、組合の中心人物を解雇したり、左遷したりする、別組合の結成を援助すること等が支配介入の禁止に抵触すると考えられます。
最期に、報復的取扱いの禁止(労働組合法7条4号)とは、労働者が労働委員会や中央労働委員会への救済申立てや再審査申立てをしたこと、労働者が労働委員会に対して証拠を提出し、もしくは発言をしたことを理由として、その労働者を解雇したり、その他の不利益な取扱いをしたりしてはならないということです。
3 不当労働行為の禁止に違反した場合
さて、使用者がこれらの不当労働行為を行った場合、どのような不利益があるのでしょうか。
まず、労働組合法27条は、禁止の違反につき労働委員会による救済手続を設けています。労働者や労働組合から、労働委員会に対して、救済手続の申立てがなされた場合、使用者は、答弁書を提出し、使用者の主張を裏付ける証拠も提出する必要がありますので、裁判を起こされた場合と同じような負担が生じてしまいます。また、労働者や労働組合側の言い分が認められてしまった場合、使用者に対して、労働者に金銭を払いなさい、今後は不当労働行為を行わない旨の掲示をしなさい等と命じる救済命令が出されてしまいます。労働委員会から、救済命令を出されてしまうこと自体が、使用者の評判にかかわることであり、痛手ですので、不当労働行為には十分に気を付ける必要があります。
また、使用者の行為が不当労働行為となる場合、私法上も無効となることもあります。労働者が労働組合に加入したことを理由とする解雇や降給が、不当労働行為(不利益な取扱い)となり、裁判所の判決によって、解雇や降給が無効とされてしまうことが典型例です。
4 最後に
使用者の行為が不当労働行為と判断されてしまうと、思わぬ不利益を受けて、自らの首を絞めることになりかねませんので、注意が必要です。
法律の規定に基づき、適切に労働組合と対峙するためにも、早めに弁護士に相談することをお勧めします。
執筆者プロフィール
弁護士 太田圭一 >>プロフィール詳細
1981年滋賀県生まれ。
離婚問題や相続問題に注力している。
悩みながら法律事務所を訪れる方の、悩み苦しみに共感し、その思いを受け止められるように努めています。
1981年滋賀県生まれ。
離婚問題や相続問題に注力している。
悩みながら法律事務所を訪れる方の、悩み苦しみに共感し、その思いを受け止められるように努めています。
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