【お役立ちブログ】SNS運用と損害賠償請求について
1 はじめに
昨今、企業の広告宣伝活動のひとつとして、SNS(X(旧ツイッター)、Instagram、
Facebook等)アカウントの運用が盛んになってきました。
SNSは、主に若い世代に対する、企業活動やプロダクトの周知に非常に効果的です。
飲食業や小売業など、業種によっては「SNSアカウントが存在しない」
ということ自体が、消費者からすると、
「いまどきSNSアカウントがないなんて、変なお店だな」
という悪印象を与えかねない、というところまでその存在感は増してきています。
SNSによる広告戦略を考えたときに、デジタルマーケティングを得意とする
コンサルティング会社等に相談・依頼してみるのも良いでしょう。
しかし、そもそも、
使い方も効果もよくわからないSNSに特別な費用をかけるのに抵抗があるとか、
まずは独力でやってみようという場合には、
「経営者自らが自社アカウントを開設して運用してみる」
「SNSに詳しい社員がいれば、自社アカウントを作成してもらって運用を任せる」
といったこともあり得ます。
そんな風にして、歯に衣着せぬ投稿や工夫を凝らした動画などが話題になって、
知名度を上げた企業や行政組織のSNSアカウントのニュースを目にしたこともあるかと思います。
もし、何かの拍子で自社のアカウントがバズったら…
そんな夢も膨らむSNSですが、その手軽さから、名誉棄損、詐欺などの違法行為の
温床になっているという負の側面もありますから、使い方を間違えれば「炎上」し、
企業の信用に傷をつけてしまうリスクがあることも認識しておきましょう。
2 SNS投稿の主な注意点
名誉毀損
公然と事実を摘示して人の名誉を毀損した場合、名誉毀損として損害賠償義務を負う場合があります
(同時に、名誉毀損罪(刑法第230条1項)が成立し、刑事処分が課される可能性もあります)。
SNS上での投稿も、面と向かって相手に伝えるわけではありませんが、
上記の要件を満たしていれば、当然、名誉毀損になり得ます。
とりわけ、公開されたSNSの投稿は、一度投稿したら、システム上削除できたとしても、
投稿した記録は完全には消滅させられない(例えば、その投稿をスクリーンショットされて、新たに拡散されれば、
拡散を止めようと思っても、手の打ちようがありません。
このような、情報として消せない特徴を捉えて「デジタルタトゥー」の問題と言われたりします)、
一瞬で、かつ大量の人へ伝播する という本質的特性を持っており、より重大な結果が発生してしまうこともがあります。
また、例えばXは、他のSNSでも定番の「いいね」機能のほか、
他の人の投稿をそのまま拡散する「リポスト」や、
自分の投稿に引用し、コメントを付して投稿する「引用リポスト」機能があります。
最近の裁判例の中には、これらSNSの機能の用法や意味合いに着目して、
自分の投稿したテキスト上に名誉毀損表現があるような場合でなくても、
名誉毀損表現のある他人の投稿を引用リポストする行為に名誉毀損を認めたものや、
名誉毀損的表現のある投稿に「いいね」を連続する行為に、
名誉感情の侵害を認めたものがあります。
つまり、自分の投稿するテキストに人の名誉を傷つける内容が含まれていないか気をつけるだけでなく、
自分が「いいね」をしたり、引用する投稿の中にも、そのような内容の投稿がないか気をつけて利用しなければなりません。
著作権侵害
他人の描いたイラスト、撮影した写真、文章等は著作物に該当し、
これを勝手に投稿したりすると、著作権侵害として違法となるのが原則です。
なお、イラストや写真は分かりやすいのですが、
文章については、SNS上の文章は比較的短いため、これが著作物なのか?と
疑問に思われる方もいるでしょう。
しかし、短い文章であっても、一定の個性が発現していれば著作物であると
解釈される傾向にありますので、余程のことがない限りは
SNS上の投稿のほとんどは著作物である と考えておいた方が穏当です。もっとも、例えば、Xの引用リポスト機能を使って、
他人の投稿内の文章等を自分の投稿に表示する行為は、「引用」(著作権法32条)に該当し、
著作権侵害にあたらないことも多いと思われます。
しかし、「引用」として認められるためには、法律上の要件をきちんとクリアする必要があり、
引用リポスト機能を使えば、どんな投稿でも、著作権法上違法にならない、
とは言い切れないのが難しいところです。
他人の投稿をスクリーンショットして自分のアカウント上で投稿したり、
引用リポスト機能を使用して投稿したりする場合には、
その投稿の中身が他人の著作物であることを意識しつつ、 正当な批評や紹介のためであっても、必要最小限の引用にとどめるか、 できれば事前に投稿者の許可を得るように心がけてください。
コンプライアンスの観点から
仮に、名誉毀損でもなく、著作権も侵害しないという場合
(つまり、違法性のない投稿)であっても、
先ほど述べたSNSの本質的特性を踏まえれば、自社あるいは自分の投稿内容が、
客観的にどのように受け止められる内容なのか、 という点も強く意識しておく必要があります。
特に、企業アカウントの運用においては、
特定の役員や担当者だけの意思または価値判断によって投稿されていると、
たとえそれが法律に反するものではなくとも、いつの間にか、
企業理念や社会倫理と乖離した「問題のある投稿」を企業の名前で行ってしまい、
信用を落としてしまうリスクがあります。
企業のコンプライアンスの見地からは、自社でのSNSの運用を行う場合、
監視の目を複数用意して、担当者任せになりすぎないように気をつけてください。3 まとめ
SNSに関連する訴訟は、年々増加しています。
企業がSNSを駆使して営業するような時代だからこそ、
安心、安全にSNSを利用していくために必要なことは何なのか、
知っておくことが求められています。
個別の事案については、是非、顧問弁護士等の弁護士にご相談ください。
弊所にも、インターネット関連法務の経験が豊富な弁護士も在籍しておりますので、
遠慮なくお問い合わせいただければと思います。