2020年06月25日

「おい、お前」と呼んだらパワハラ上司? ~言葉と行為からみるパワハラ~

1 はじめに


仕事をする中で、時と場合によっては、部下を叱咤激励し、厳しく指導しなければならないこともあります。
部下の成長を願い、敢えて厳しく突き放すこともあるでしょう。
それらが全て、パワハラになってしまうのであれば、部下の指導ができなくなり、職場内の規律が失われるなど、困ったことになってしまいます。

「厳しい指導」と、違法な「パワハラ」との境界線はどこにあるのでしょうか。
いくつかの具体例を通して、パワハラと言ってよいかどうか微妙なケースも見て行きたいと思います。

2 大まかな傾向


まず、大まかな傾向として、業務上の必要性がなかったり、乏しかったりする場合、暴力を伴うもの、人格攻撃を含み名誉感情を侵害するような暴言を伴うもの、執拗で継続的なものは、パワハラと評価されやすいと言えます。

一方で、業務上の必要性が大きい場合には、叱責等の言動に少々厳しいものがあったとしても、業務上の指導の範囲内のものとして許される場合があります。

3 個別具体的な事例


それでは、どのような行為や言葉がパワハラになるのか、厚生労働省の区分に従って、個別的に見て行きましょう。

(1)暴行・傷害(身体的な攻撃)
(2)脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
(3)隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)

この3類型については、基本的にはこのようなことをする必要性がないため、原則としてパワハラになると考えてよいでしょう。
また、身体的な攻撃に関しては、直接相手の身体に触れなくても、パワハラになることがあります。

例えば、従業員の面前で、机を叩く、物にあたる、ペンを投げるといった行為であっても、業務上の必要性がないことがほとんどですので、パワハラになってしまいます。

次に、精神的な攻撃ですが、原則として、大声で怒鳴る業務上の必要性は乏しいでしょう。
また、部下にやる気を出させる目的で、「給料下げるぞ。」、「異動させるぞ。」、「降格させるぞ。」と言う上司がいるかもしれませんが、これらの発言が、パワハラになってしまうこともあります。
そもそも、そのような言葉を投げかけて、部下を発奮させることができるかは疑問です。

女性従業員に対して、「ババア」と呼ぶことは、「ババア」という表現方法を用いる業務上の必要性がないうえ、女性の名誉感情を害するものですから、あってはならないことです。それどころか、呼び捨てする、「お前」、「貴様」、「てめえ」と呼びつけることだけでも、パワハラになることがありますので、注意する必要があります。

最後に、従業員を無視することも、業務上の合理的な理由があるとは思えませんので、パワハラになる可能性が高いと言えます。

ですが、次の3類型については、上記の3類型と比べて、パワハラになるかどうかの判断が難しいと思います。

(4)業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
(5)業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)
(6)私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)

これらの類型については、「明らかに不要」な業務を命じたかどうか、「業務上の合理性な必要性なく」程度の低い仕事をさせたかどうか、私的なことに「過度」に立ち入ったかどうか、評価が難しいからです。

例えば、ノルマを設定することが、全てパワハラに当たるかというと、そうではありません。従業員にとって、厳しめのノルマを課して、意欲的に仕事に取り組んでもらうことは、許されるでしょう。

ただし、あまりにも過大で達成不可能と思えるようなノルマを課すことは、パワハラとの評価もあり得るところです。

また、残業をさせないということについても、それだけで、パワハラとは言えないでしょう。
ただし、残業せざるを得ないような仕事をさせておきながら、一切残業を禁止し、従業員に大きな負担を与えた場合は、パワハラの問題になるかもしれませんので注意が必要です。

さらに、プライベートへの干渉についても、私的なことに過度に立ち入ったかどうか、評価が難しいところです。職場内で良好な人間関係を構築するという目的で、プライベートな話をすることは当然にあり得るからです。
そうは言っても、執拗に恋人や配偶者の有無や過去の恋愛経験を聞くことは、業務との関連性がないのでパワハラになってしまう可能性があります。

4 法的評価のまとめ


結局のところは、パワハラに当たるかどうかは、業務の適正な範囲と言えるかどうかに大きく左右されることになります。
そして、業務の適正な範囲かどうかは、業務命令等の内容、態様、頻度、業種、企業文化、人間関係等によって、個別具体的に決まります。

ですから、法的なリスクを回避するためには、暴力、暴言、無視は、絶対にしない、業務の必要性がない指示や指導はしないというスタンスを守る必要があります。

5 最後に


暴行や暴言という明らかに違法な行為、業務の必要性がない厳しい指導を避けるということは、法的トラブルを避けるという観点からして、非常に大切なことですが、さらに進んで、違う視点からも考える必要があると思います。

パワハラによって、傷つく人がいるということはあってはなりませんが、過度にパワハラを恐れて、職場内から規律や厳しさが失われることも望ましくはありません。

厳しい指導、叱咤激励というのは、本来、自身の感情を相手にぶつけて相手を傷つけるためにするのではなく、相手の成長を促し、良好な職場環境や健全な企業風土を維持するためになされるべきものです。

そうであるとすれば、部下に対して、何らかの厳しい指導や指示をしようとする際には、業務の必要性があるかどうかを慎重に検討するにとどまらず、自分がそうすることによって、部下はどう思うか、成長を促すことに繋がるかどうか、厳しい態度をとることが職場環境や企業風土の維持の観点から望ましいかどうかにも思いを巡らせてはいかがでしょうか。



執筆者プロフィール
弁護士紹介|太田 圭一弁護士 太田圭一 >>プロフィール詳細
1981年滋賀県生まれ。
離婚問題や相続問題に注力している。
悩みながら法律事務所を訪れる方の、悩み苦しみに共感し、その思いを受け止められるように努めています。
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