【企業法務】実際にあった北陸のパワハラ事例 Part 1
はじめに
今回は、北陸3県(石川、富山、福井)のパワハラ事例を見ていきたいと思います。
前回の「【企業法務】パワハラとは何か?」の記事で紹介されたパワハラの種類のうち、暴行・傷害(身体的な攻撃)や脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)には、相手を叩く、「役立たず」と罵るなど、誰がどう見ても、明らかにパワハラと分かるものが多く、判断は難しくないと思います。
ですが、
①隔離
②仲間外し
③無視(人間関係からの切り離し)
④業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
⑤業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)
⑥私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)
については、パワハラと評価してよいかどうか判断に迷うケースも少なくないと思われます。
そこで、どのような場合に、裁判所は、パワハラと認定したかについて、石川県と富山県の事例を紹介します。
大学元教授事件(金沢地方裁判所平成29年3月30日判決)
これは、石川県内にある大学の准教授Aさんが、上司である教授のBさんから、パワハラを受けていた事件です。
Aさんは、上司であるBさんの不正を内部告発しました。そうしたところ、内部告発をよく思わなかったBさんから、様々な嫌がらせを受けてしまいました。
Aさんが受けたと主張する被害の中で、金沢地方裁判所がBさんからのパワハラ(違法な行為)だと認めたものは、次のようなものです。
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- Aさんに対する嫌がらせのために、Aさんの使用する機器室とセミナー室との間に、ホワイトボード、パーテーションやキャビネットなど高さのある器具等を隙間なく、視界を遮るように間仕切り状に設置した行為。
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- 約9年間にわたり、Aさんに共同実験室の鍵を使わせなかった行為。
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- Bさんが、Aさんに対して、人前で、Aさんが実験室の鍵を故意に隠匿しているかのような発言をしたこと。
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- 合理的な理由なく、Aさんに大学の授業を担当させなかったこと。
- Bさんが、容易になしうる調査もしないまま、恣意的にAさんを強く非難する報告書を、大学に提出したこと。
これらのパワハラを理由として、金沢地方裁判所は、Aさんからの慰謝料請求を認めています。
この事件において、Bさんには、不正を告発されたことに対する報復という、わかりやすいパワハラを行う動機があります。
そして、Aさんを隔離したり、仲間外れにしたりし、能力に応じた仕事をさせず、Aさんの名誉や評判、評価を貶めたのです。
運送会社事件(富山地方裁判所平成17年2月23日)
この事件は、労働者(Aさん)が、闇カルテルの存在を新聞社に内部告発したところ、勤務していた運送会社から、内部告発を理由に、様々な不利益を受けたというものです。
この不利益の中には、パワハラと言ってよいものも含まれているため、紹介させて頂きます。
Aさんは、闇カルテルを告発した後、上司から、「辞表を出せ。」、「こんなことを続けていると、君の一生は大変なことになるよ。」と言われ、退職を迫られました。
退職を拒んだところ、それまで営業として働いていたAさんは、富山県にある教育研修所への異動を命じられました。
教育研修所では、建物やトレーラーコースの清掃管理、草刈り、教室の片付け、文具等の購入、研修生が使用した布団の整頓、冬季の除雪やストーブへの給油等の雑務のみをさせられ、研修や講習そのものを担当させてもらうことはありませんでした。
また、教育研修所の1階事務室に、Aさんの席をおく場所を確保できたにもかかわらず、会社は、Aさんに、2階の個室で勤務するように命じ、他の職員との接触を妨げました(ただし、この取り扱いについては、教育研修所の移転に伴い、なくなっています。)。
さらに、Aさんは、長期間にわたって補助的な雑務に従事させられていたため、昇給することもありませんでした。
このような嫌がらせについて、富山地方裁判所は、Aさんからの会社に対する慰謝料請求を認めています。
会社は、Aさんが内部告発という正当な行為を行ったことの報復として、Aさんに退職を求め、それが無理だとなると、Aさんを隔離し・仲間外れにし、Aさんの能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事だけをするように命じました。
組織的なパワハラと言っても過言ではないでしょう。
まとめ
このように、私たちの住む金沢や北陸でも、現に、パワハラが行われたために、裁判にまでなっている事案があります。
今回紹介させて頂いた2例は、いずれも、労働者が内部告発という正当な行為をしたところ、それを良く思わなかった者から、パワハラの被害に遭ったというものです。
パワハラをする目的に良いも悪いもないと思いますが、内部告発の仕返しに、嫌がらせをするというのは、経営者あるいは上司として、厳に慎むべきことだと考えられます。
また、正当な内部告発をした労働者を、内部告発を理由に解雇したり、不利益な取り扱いをしたりすることは、公益通報者保護法にも違反することになりますので、この点にも留意する必要があります。
さて、次回は、
①行き過ぎた叱責や指導があった事例
②パワハラが否定された事例
を紹介させて頂き、どのような場合にパワハラになり損害賠償責任を負うことになるのか、どういうところに注意すればよいのかを考えたいと思います。
1981年滋賀県生まれ。
離婚問題や相続問題に注力している。
悩みながら法律事務所を訪れる方の、悩み苦しみに共感し、その思いを受け止められるように努めています。