2020年05月22日

【企業法務】実際にあった北陸のパワハラ事例 Part 2

 

 

1 はじめに

今回も、前回の「【企業法務】実際にあった北陸のパワハラ事例 Part 1」に引き続いて、
北陸3県(石川、富山、福井)の裁判例を紹介します。

2 パワハラが認められた案件

福井地方裁判所平成26年11月28日判決、名古屋高等裁判所金沢支部平成27年9月16日判決)

Aさんは、高校を卒業後、すぐB社に就職し、メンテナンス部に配属されました。そして、各地の事務所や作業所、工場等に設置されている消防設備や消火器等の保守点検業務に従事しました。

ところが、Aさんは、高校を卒業したばかりで、すぐに仕事を覚えることは難しく、失敗をすることもありました。また、移動中に、上司が運転する車中で、居眠りをしてしまうこともありました。

そこで、Aさんは、上司から、何度も、

「学ぶ気持ちはあるのか、いつまで新人気分」、「詐欺と同じ、3万円を泥棒したのと同じ」、「毎日同じことを言う身にもなれ」、「わがまま」、「聞き間違いが多すぎる」、「耳が遠いんじゃないか」、「人の話をきかずに行動、動くのがのろい」、

「相手するだけ時間の無駄」、「反省しているふりをしているだけ」、「平気で嘘をつく、そんなやつ会社に要るか」、「死んでしまえばいい」、「辞めればいい」、「今日使った無駄な時間を返してくれ」等と叱責されました。

そして、何度も何度も繰り返された叱責に耐えかねて、Aさんは、うつ病を発症し、自ら命を絶ってしまいました。

これらの上司の叱責について、裁判所は、「仕事上のミスに対する叱責の域を超えて、Aさんの人格を否定し、威迫するものである。」、

「これらの言葉が経験豊かな上司から入社1年にも満たない社員に対してなされたことを考えると典型的なパワーハラスメントと言わざるを得ず、不法行為に当たると認められる。」と判断して、B社と上司に対して、約7200万円の支払いを命じました。

 

3 パワハラが否定された案件
(金沢地方裁判所平成31年2月7日判決)

Cさんは、町の嘱託職員として働き始めたところ、先輩職員2名(Dさんら)から、パワハラを受け、抑うつ状態になったとして、治療費や慰謝料等の損害賠償を求める裁判を起こしました。

Cさんが、パワハラだと主張したものは、次のようなものです。

① 十分な研修を受けられないまま、1人で業務をさせられた。

② Dさんらは、Cさんが挨拶をしても無視し、書類を提出して確認を求めた際には、Dさんらは、「またいらん仕事や」と聞えよがしに話したり、大きなため息をついて「嫌やな」と発言したりした。

③ 仕事の書類が入った棚を、Cさんの席から届かない位置に移動させ、中の書類を抜き取って、Cさんに仕事を分担させないという嫌がらせをした。

④ 公用車が2台しかなく、3名が交替で使用する必要があったにもかかわらず、Dさんらは、公用車の鍵を独占し、Cさんに、公用車を使わせないという嫌がらせをした。

このCさんからのパワハラの訴えに対する金沢地方裁判所の判断は、次のとおりです。

① 新規研修が行われているうえ、先輩職員による指導が継続的になされていたため、Cさんが十分な研修を受けないままに、1人で仕事をさせられたというのではない。

② Cさんが、Dさんらから無視されたり、書類の確認を求めると、「またいらん仕事や」などと言われたりしたという事実は認められない。

③ Cさんは、採用されて間もなかったころであるにもかかわらず、相応の件数を担当しており、正当な理由なく、仕事を割り振らなかったり、仕事を取り上げたりしたとは言えない。

④ 公用車が2台しかないため、主に新規に採用された職員が、他の課に公用車を借りるようにしていたところ、この慣行自体が不合理とは言えず、Cさんが不満を抱いたとしても、パワハラではない。

Cさんは、抑うつ状態となっていましたが、結論として、金沢地方裁判所は、パワハラがあったとは判断しませんでした。

4 まとめ
さて、今回は、上司による叱責や指導があまりにも行き過ぎ、人格攻撃となった事件、そして、パワハラが否定された事件を見てまいりました。

1番目の事例では、上司が発した叱責の言葉自体が、厳しく辛辣なものであるのに加えて、部下が高校を出たばかりの新人社員であったということも、パワハラという評価に繋がっています。仕事をする中で、他者を指導し、ミスを注意することもあると思いますが、感情的になることなく、相手の立場や経験に配慮して、相手を傷つけることのないようにしたいものです。

また、2番目の事例のように、裁判所がパワハラだと認めないことであっても、労働者を傷つけ、労働者が不満を持ってしまい、裁判に発展してしまうこともあります。

このようなパワハラ事例を他山の石として、明るく働きやすい職場環境にするべく、自らの行動を律したいと思います。



執筆者プロフィール
弁護士紹介|太田 圭一弁護士 太田圭一 >>プロフィール詳細
1981年滋賀県生まれ。
離婚問題や相続問題に注力している。
悩みながら法律事務所を訪れる方の、悩み苦しみに共感し、その思いを受け止められるように努めています。

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