2019年12月18日

【企業法務】高度プロフェッショナル制度

ご存知ですか?高度プロフェッショナル制度

働き方改革関連法で,「高度プロフェッショナル制度」というものがつくられ,2019年4月1日に施行されました。

そこで,今回はこのことについてお話しします。

高度プロフェッショナル制度とは

高度プロフェッショナル制度は,少なくとも1,075万円以上の年収があって,高度の専門知識を必要とする職務を担う人を対象に,その職務に従事する人の健康を確保する措置をとった上,本人が同意する等の条件を満たした場合に,労働時間規制や割増賃金等の,労働基準法の規制の適用を除外する制度です。

つまり,高度プロフェッショナル制度を利用することで,残業代の計算や労働時間の限界,休憩や休日の制限等を受けることがなくなります。

このような制度がつくられた目的は,時間ではなく成果で評価される働き方を希望する労働者のニーズに応え、その意欲や能力を十分に発揮できるようにするためだとされています。

高度プロフェッショナル制度を受けるためのための手続き

高度プロフェッショナル制度を受けるための手続きの流れとしては,以下のような流れで行っていきます。

①労使委員会が設置されていること

②労使委員会の5分の4以上の多数による決議

③②の労使委員会の決議を労働基準監督署に届け出る

④労働者本人の書面または電磁的方法による同意

⑤対象業務への就労(労働基準法第41条の2第1項)

労使委員会とは,使用者や労働者の代表で構成される,職場の労働条件について調査・審議し、事業主に対して当該事項について意見を述べることを目的とする委員会のことです。

労使委員会が組織されていない場合,高度プロフェッショナル制度を利用するには,まず労使委員会を設置しなければなりません。

また,いったん同意して高度プロフェッショナル対象となった従業員であっても,会社側に撤回を申し出て,高度プロフェッショナル制度から外れることができます。雇用形態も問われません。

手続きの流れとしては以上のとおりですが,何でも労使委員会の決議で決定すればいいのではなく,法律で決議すべきことが決まっています。

労使委員会の決議

労使委員会では,次のようなことを決議しなければなりません。

1 対象業務の範囲

まず,対象業務がどこまでかを決定する必要があります。

といっても,どんな仕事でもいいわけではなく,法令で決められた業務でなければなりません。

また,業務時間も具体的に指示を受けていてはいけないという制限があります(労働基準法施行規則第34条の2第3項)。

現時点で,高度プロフェッショナル制度の対象業務としては,金融商品の開発、投資ディーラーやトレーダー、企業・市場等のアナリスト、コンサルタント、研究者等が定められています。

2 制度の対象となる従業員

次に,高度プロフェッショナル制度の対象となる従業員の範囲はどこまでかを決定しなければなりません。

まず,職場での職務の範囲についても明確に決められている必要があり,職務範囲については,書面等の方法で,従業員と会社で取り交わしがされなければなりません(労働基準法施行規則第34条の2第4項)。

また,給与額の水準ですが,法律上は「1年間に支払われると見込まれる賃金の額が、平均給与額の3倍を相当程度上回る」金額を基準とするように,とされています(労働基準法第41条の2第1項第2号ロ)。

つまりは平均年収額の3倍を超える年収をもらう人が対象となるのですが,現時点では,年間の総支給額が1,075万円を超えていればよい,と法令で決められています(労働基準法施行規則第34条の2第6項)。

3 健康確保措置がとられていること

そして,高度プロフェッショナルを採用する以上は,従業員が健康を確保できるように,以下のしっかりとした体制がつくられていなければならないとされています。

①経営者が、その従業員の健康管理時間(在社時間と社外で労働した時間のこと)を把握する措置をとっていること(労働基準法第41条の2第1項第3号)

②年間を通じ104日以上、かつ、4週間を通じ4日以上の休日を確保していること(労働基準法第41条の2第1項第4号)

③次の4つののうちいずれかを実施すること(労働基準法第41条の2第1項第5号)

Ⓐ 終業から始業までの間に11時間以上のインターバルを確保し,かつ,深夜の業務回数を4回以内とすること

Ⓑ 1週間あたり40時間を超える健康管理時間(在社時間+社外で労働した時間)が,1ヶ月あたり100時間までか,3ヶ月あたり240時間までとする上限を設けること

Ⓒ 1年に1回以上,2週間連続の休日を与えること

Ⓓ 1週間あたりの健康管理時間(在社時間+社外で労働した時間)が40時間を超える時間が1ヶ月80時間を超えている従業員か,健康診断を希望した従業員に対し,臨時の健康診断を行うこと

これらの措置を実際に講じていない場合は,決議は無効となり,高度プロフェッショナル制度の適用はなかったことになります。

4 その他

以上のほか,以下のような社内の手続やルールなどを定めなければなりません。

①労働者の同意の撤回手続きの制定(労働基準法第41条の2第1項第7号)

②労働者の苦情処理の措置をとること(労働基準法第41条の2第1項第8号)

③同意しなかった労働者に対する不利益な取扱いの禁止(労働基準法第41条の2第1項第9号)

④その他厚生労働省が定める事項(労働基準法第41条の2第1項第10号)

※現時点では,決議の有効期間や自動更新としないこと等の手続きに関することが定められています(労働基準法施行規則第34条の2第15項)

高度プロフェッショナル制度の効果

高度プロフェッショナル制度が適用された場合,対象の従業員については,労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定の適用が除外されます(労働基準法第41条の2第1項)。

つまり,残業代や深夜勤務手当の支払いが不要となり、休憩時間及び休日の付与もいらず,時間外労働の上限規制もなくなるため,従業員としても会社としても,労働時間を気にせず働くことができるようになります。

ただし,会社には,以下のことをしなければならなくなります。

①健康確保措置の実施状況を6ヶ月ごとに労基署まで報告すること(労働基準法第41条の2第2項)

②相当に長時間労働をしている従業員については,医師による面接指導を受けさせること(労働安全衛生法66条の8の4)

③医師の面接指導の結果に基づいて,職務内容変更や特別有給休暇,健康管理時間短縮等の配慮をすること(労働安全衛生法66条の9)。

問題点

高度プロフェッショナル制度については,法律をつくる際に相当の議論や批判がされ,以下のような問題点が指摘されています。

・過労死した場合でも,違法でないことになってしまうのではないか

・対象業種については,退勤時間が早まることは少なく,むしろ長時間労働につながるのではないか

・サービス残業などの違法状態を肯定する結果となりかねない

・賃金格差が生まれやすいのではないか

・裁量の有無は問わないので,現実に早退はできないのでないか

 

まとめ

高度プロフェッショナル制度を利用する場合には,このような問題点があることを意識して,慎重に運用していく必要がありそうです。

執筆者プロフィール
弁護士紹介|森長 大貴弁護士 森長大貴 >>プロフィール詳細
1987年福井県生まれ。
債務整理やインターネットトラブルに注力している。
相談に来られた方が叶えたい希望はどこにあるのか、弁護士である前に1人の人間として、その人の心に寄り添って共に考えることを心がけている。

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