株主総会の意義と重要性
今回は株主総会の意義と重要性について解説いたします。
1 議事録は株主総会ではありません
取締役や監査役の選任,取締役等の報酬の決定,退職慰労金の決定,事業譲渡や合併,解散など会社の重要な意思決定は株主総会で行われることとされています。ところが,株主総会を開かずに,株主総会議事録だけを司法書士や税理士などに作ってもらっている中小企業が少なくありません。
総会議事録だけを作って,法務局に登記申請したり,税務署に提出したりしているのです。
法務局などの役所は,議事録さえ整っていれば,実際に株主総会が開催されたか否かを調査することはありません。ですから,株主総会を開いていなくても,議事録が作成されていれば,登記申請などは受け付けられます。
しかし,後日,株主総会決議の効力が争われることがあります。一部の株主から,裁判所へ総会決議不存在確認の訴えあるいは総会決議無効確認の訴えなどが提起され,審理の結果,決議不存在とか決議無効と判断される場合もあります。
その場合,会社や取締役は非常に大きなダメージを受けることとなりますが,実はこのような裁判例は少なくありません。法務局や税務署は書類だけで通りますが,裁判所は違うということをよく知って頂きたいと思います。
本来,株主総会や取締役会は会社法で開催が義務づけられているものであり,議事録だけを作っておくというのは重大な法令違反であり,コンプライアンス違反です。 そして,前述したように,役員選任や増資,事業譲渡などの重大な決定が覆ってしまうことがあるのです。
2 社長も気持悪いと思っている
また,専門家などに作ってもらった総会議事録には
「令和2年5月12日午前10時,石川県金沢市小将町3番8号当社本店会議室において,第5回定時株主総会を開催した。定款の規程により代表取締役社長甲野太郎は議長席に着き,定時株主総会は適法に成立したので開会する旨を宣言し,直ちに議事に入った。」
などと記載されています。
しかし,実際には総会を開催していませんし,社長が議長として開会を宣言したり,議事に入るということもしていませんから,社長は「何か気味が悪いな」と思いながらも押印しているというのが実情です。
3 開催の手順
総会も取締役会ともに,招集手続など開催の手順が,会社法や定款に定められています。その手順をきちんと実行して開催することが必要です。
また,例外的に書面決議が認められている場合もありますが,厳しい要件があるので,しっかりと確認して手順を踏むことが必要となります。
今はコンプライアンスが重要な時代です。
帝国データバンクの調査では,コンプライアンス違反を原因とする倒産が毎年200件を超えています。会社法は会社経営のベースであり,株主総会や取締役会の開催は基本中の基本です。定期的に取締役や株主が意見を述べ合う場があってこそ,多くの視点を確保することができ,緊張感のある経営ができることとなります。
株主総会の開催はまったく難しいものではありません。法令に従って必ず開催するようにしましょう。
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顧客対応やクレーム処理,債権回収など,時代によって対応に変化が必要であり,最近はSNSなどを意識した対応に心がけている。