契約書の作り方「契約の名義人,住所について(1)」
今回のコラムでは,契約書の名義と住所について,お話ししたいと思います。
まず契約書の名義についてですが,基本的に契約の名義人は,誰が契約の当事者なのかという点で決まります。
たとえば,私が100万円を借りる場合は,貸す側の銀行と借りる側の私が当事者のため,契約の名義人も銀行と私の名前を書けばよいことになります。
契約書を交わしたのが個人であれば迷われないと思います。
ところが,会社との取引の場合,実際に契約書を作ったのは,会社そのものではなく担当者ですね。
しかし,担当者個人が取引をしたのではないので,担当者の名前が契約書に出てくることは通常ありません。取引はあくまで会社とするものであるため,契約書には会社の名前を出すことになります。
では,契約書には会社の名前だけ書いておけばよいのかというと,そうではありません。
会社はあくまで組織であり,会社自体ではなく,会社にいる人が意思決定をするものです。意思決定をする権限がないのに会社として契約を結んでしまったならば,後から契約が無効になるおそれがあります。
そのため,会社として契約を結ぶ権限を持っている人の名前も,契約書の名義人として書くべきです。
そして,代表取締役は会社のすべての意思決定をする権限を持っていますから,会社との契約の場合,会社名だけでなく代表取締役の名前も併記するのが最も適切でしょう。押印も,会社名の入っている代表取締役の印鑑を使うのがよいと思います。
ちなみに,契約を結んだ時点で権限があればよいため,契約を結んだ後で代表取締役が退任してしまったとしても,契約の効力に影響はありませんのでご安心を。
次に住所についてですが,契約した相手が人違いであっては大変ですので,契約の名義人を特定するために,契約書に住所を記載することになります。
契約するのが個人であれば,自宅のある住所を記載すれば足ります(いくつも自宅のあるような方は迷われるかもしれませんが…)。
会社であれば,通常は会社の本店所在地として登記した住所地を記載するのが通常です。
それでは,登記上の本店所在地からすでに引越してしまい,実態は別の場所に会社がある場合,住所はどのように記載したらよいでしょう?
考え方は様々ですが,契約の効力だけ考えるのであれば,住所地は名義人の特定のために書くものですので,その記載で会社の特定ができればよいことになります。
そして,会社は登記で存在を証明できるので,契約書に登記上の本店所在地を記載するのが適切だと考えられます。
すでに引越しをして,登記上の本店所在地では連絡がつかない場合は,別途実際に連絡できる住所地を伝達することで対処されるとよいと思います。
登記上の本店所在地も,実際の会社の住所に変更しておくのをお忘れなく。
もちろん,契約を結んだ後で住所地を変更したとしても,契約の効力に影響はありませんのでご安心ください。
まとめ
・契約の名義人は,会社の場合,会社名と代表取締役名を記載し,会社名の記載のある代表取締役の印を押すのが適切。
・契約の住所地は,会社の場合,登記上の本店所在地を記載するのが適切。
契約書を作成するときは,以上の点をチェックしてみてください。
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顧客対応やクレーム処理,債権回収など,時代によって対応に変化が必要であり,最近はSNSなどを意識した対応に心がけている。