2023年07月26日

【企業法務の事例】破産したいが、事業継承はどうするか?

ご相談の内容

加工業を営んでいる事業者の方から、倒産と事業承継に関する相談がありました。

資金繰りが厳しく、このままでは、銀行への返済も滞ってしまい、従業員への給料も払えなくなってしまうのですが、簡単に廃業できない事情もありました。

その事業者の方は、ある商品の生産過程の重要な一部を担っているため、取引先や一般消費者に与える影響が大きく、簡単に廃業することができないものの、資金繰りが悪化し、負債が増える一方だと悩んでおられました。

 

解決への道筋

依頼者の年間収支、資金繰りの状況からして、銀行への返済が滞り、早晩、従業員に対する支払いも難しくなることが予想できましたので、いずれは廃業し、破産をせざるを得ませんでした。

しかしながら、依頼者が心配されているように、急に廃業した場合、取引先や消費者に大きな迷惑をかけてしまいますので、廃業による影響を最小限にする必要もありました。

そこで、依頼者が行っている事業を、関係する同業者に引き継いでもらえないかと検討しました。

一般的に、会社が破産する場合は、混乱を避けるため、銀行にも取引先にも知られないように、秘密裏に破産申立ての準備を進めますが、事業を引き継いでもらう予定の同業者には事情を説明し、協力を求めました。

依頼者の資金繰りが厳しいこと、事業がストップすると多方面に大きな影響がでることを説明したところ、事業の承継を快諾して頂けました。

金融機関各社に対して、支払い停止の通知を送った日、依頼者の事業所に赴き、従業員に対して、解雇予告手当を支払って、解雇を告げました。依頼者は廃業するため、従業員を雇用できないが、従業員には、技術があるため、今後は、同業者で働いてもらいたい旨を伝えるとともに、同業者の責任者に来て頂き、今後の雇用を約束してもらいました。従業員の了解も得られて、翌日から同業者で働いてもらうことになりました。

そして、従前から段取りをしていたとおり、早急に、事業用建物の明け渡しを行い、賃借物件やリース物件を返却し、今後は、同業者が、これまで依頼者が使っていた事業所で、依頼者と同様の事業を行うことになりました。

また、依頼者は、事業に必要な備品を若干所有しており、新規に調達するとすれば一定の費用が必要となるものでしたが、すでに使い込まれており、中古販売価格も高くはないだろうと考えて、同業者に無償譲渡しました。

秘密裏に破産申立てを進めて、同業者の協力も得られていたため、破産申立てが公になった際の混乱は、思いのほか少なく、生産工程がストップしてしまうという事態もありませんでした。

また、今回のケースのように、破産申立て前に事業承継を行うにあたっては、後日、破産管財人から、事業譲渡の対価が不当である等の指摘を受けて、否認権を行使されるリスクがあります。

今回のケースは、事業承継の主要な部分は、依頼者が、手に職をつけた労働者を解雇し、同業者が再雇用するという点にあり、換価可能な財産を安く譲渡したものではないため、否認権の行使はされないだろうと考えていましたが、破産管財人も破産裁判所も事業承継に何ら異議を述べることなく破産手続きが終了しました。

最後に

代替性がない重要な事業を営んでいる、大切なお客さんや取引先がいる、地域の伝統を守るために事業を続けないといけない等、容易に廃業できない事業者の方も多いでしょう。

廃業に伴って迷惑をかけるのではないかと思うと、安易に破産することもできないため、大変悩まれているものと思います。

そのようなときには、弁護士への相談もご検討頂ければ幸いです。

破産などの倒産処理に伴う事業承継の手段は種々考えられますので、その事業者の方の置かれた状況に応じた解決策を、検討する必要があります。資金繰りが悪化し、手元資金が乏しくなってしまうと、とりうる選択肢も狭まってしまいますので、なるべく早期に、弁護士にご相談ください。

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