【企業法務の解決事例】残業代請求で労働審判を起こされたら…
ご相談の内容
ある警備保障会社から、ある総合病院の夜間警備をしている現場において就労していた労働者から、退職後間もなく、突然、弁護士をつけて、残業代700万円を請求する通知書が届いた、ということで、相談に来られました。
会社の説明では、基本的には3人体制で警備をしているため、それぞれに十分な仮眠時間も与えており、また1月単位の変形労働時間制を採用して月間のシフトが決まり、そのシフトごとに給与を決めていたので、超過勤務手当を支払うような状況にはないはず、とのことでした。
そして、その旨の回答をしたのですが、相手は納得せず、突然、労働審判を起こして来たのです。
相手の主張を見ると、
(1)仮眠時間も労働時間に入るから、相当の長時間労働になっていた、
(2)また、1月単位の変形労働時間制の要件を満たしていない、
との主張でした。
解決への道筋
そこで、上記争点について、判例を調べました。夜勤中の仮眠時間については多くの判例があり、警備員の夜勤中の仮眠時間が待機時間として労働時間に当たるのかどうか、問題となっております。
仮眠時間が休憩時間である(労働時間ではない)、と認定した事案として、例えば、東京高裁平成17年7月20日付判決がありました。
これによると、
「労働者が実作業に従事していないというだけでは、使用者の指揮命令下から離脱しているということはできず、当該時間に労働者が労働から離れることが保障されていて、初めて、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていないと評価することができる。従って、不活動仮眠時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には労働基準法上の労働時間に当たるというべきである」
「ただし、仮眠時間中、労働契約に基づく義務として、仮眠室における待機と警報や電話等に対して直ちに相当の対応をすることを義務付けられ、実作業への従事がその必要を生じた場合に限られるとしても、その必要が生じることが皆無に等しいなど実質的に上記のような義務付けがされていないと認めることができるような事情が認められる場合、労働時間に当たらない」
と判示しています。
この判例に照らして仮眠時間中の様子を尋ねたところ、仮眠する人には分離された別室が用意されていること、警備業務は基本的に3人体制で、そのうち1人が時間を決めて仮眠をすることになっていること、仮眠中の労働者が仮眠時間中に起きて対応することはほとんどないことが判明しました。
そこで、かかる現場の状況を写真に撮り、裁判所に提出して、仮眠時間中は労働からの解放が保障されていることをアピールしました。
また、1か月単位の変形労働時間制を採用するには、労働基準法32条の2の要件を満たし、その旨就業規則にも明記されていることが必要ですが、概ね要件を満たしているように思われましたので、その旨もアピールしました。
その結果、裁判所からは、100万円を支払うことで和解したらどうか、という和解案が示されました。当方の主張の大筋が認められた結果でした。最終的にはその金額で和解が成立しました。
最後に
労働事件は、争点が多く、かつ、裁判(労働審判も含めて)になると、予想以上に不利な解決を押しつけられるケースもあります。
労働紛争は、なるべく早期に、弁護士にご相談ください。