2022年12月01日

残業代請求対応(歩合給制度の活用方法)

1 はじめに

従業員の仕事に対する意欲を高め、会社の業績を伸ばすために、歩合給を導入している職場もあると思います。

歩合給とは、一定期間の稼働による売上高に一定の歩合を乗じた金額を給与として支払うことを言い、労働基準法27条の「出来高払制」の一種です。

歩合給の制度は、従業員が成果を上げた場合に、給与の額が増えるという目に見えた結果が出るため、従業員の仕事に対するモチベーションが上がると言われており、営業の仕事に就いている従業員やタクシーやトラック等のドライバーの給与体系として採用されることが多いようです。

ただし、歩合給制の活用にあたっては、歩合給制に対する正しい理解と、就業規則等の適切な規定と運用が必要です。例えば、誤解されやすいところでは、歩合給制においても、残業すれば残業代の支払い義務があるのですが、残業代の支払いは正しくなされていますでしょうか。

 

2 歩合給の残業代計算方法

歩合給制を導入した場合の残業代の計算方法は、通常の残業代の計算と異なっており、注意すべき点があります。

歩合給制が採用されている場合でも、完全歩合給ということは少なく、基本給が定められ、それに歩合給が加算されるという制度が多いと思います。残業代を計算するにはこの基本給部分と歩合給部分で扱いが異なってきます。まず、基本給部分については、基本給を所定労働時間で割った基礎賃金を算出し、その基礎賃金に1.25を乗じて1時間当たりの残業代を算出します。

これに対して、歩合給の場合の基礎賃金は、歩合給制によって計算された賃金の総額を、総労働時間で割った金額になります。なぜなら、基本給部分が労働契約上の所定労働時間に対する賃金として支払われているのに対して、歩合給は、労働者が実際に労働した全ての時間に対して支払われているという違いがあるからです。また、歩合給は、労働者が実際に労働した全ての時間に対する対価であることから、1.25倍のうち「1」の部分は全て支払済みと考えて、0.25の割増部分の支給をすれば足ります。

具体例を見てみましょう。

1月の所定労働時間が176時間の会社において、ある労働者が30時間の残業をしました。そして、基本給30万円、歩合給10万円とした場合の残業代を計算するとします。

基本給部分の基礎賃金は、300,000円÷176時間(所定労働時間)ですので、1時間あたり1,705円になります。そして、基本給部分の時間外労働1時間当たりの金額は、1,705円×1.25=2,132円になります。

歩合給部分の基礎賃金は、100,000円÷206時間(総労働時間)ですので、1時間あたり486円になります。そして、歩合給部分の時間外労働1時間あたりの金額は、486円×0.25=122円になります。

よって、30時間の残業代は、30時間×(2,132円+122円)=67,620円になります。

 

3 歩合給として認められるかどうか

歩合給として支給しているつもりの手当が、歩合給なのか基本給なのかが、裁判上の争点となることがあります。

歩合給でないとすれば、基本給として基礎賃金に含まれてしまうため、使用者は、意図しない負担を被ることになってしまいますから注意が必要です。

歩合給などの出来高払制は、「労働者の製造した物の量・価格や売上の額などに一定比率を乗じて額が定まる賃金制度」とされていますので、歩合給制を導入する場合には、成果に正比例して、歩合給として支払う賃金の額が確定するように規定し、そのとおりに運用する必要があります。

 

4 最判令和2年3月30日(国際自動車事件判決)について

様々な事情により、歩合給と残業代とを関連付けた給与体系としている会社もあると思いますが、給与体系の設計自体に問題があるとして、裁判になるケースもありますので注意が必要です。

歩合給と残業代とを連動させた給与体系が問題となったのが、国際自動車事件です。タクシー会社の従業員が、歩合給の計算にあたって、割増金(残業代)に相当する金額を控除する旨を定める賃金規則の定めは無効であると主張し、控除された残業代の支払いを求めた事件です。

この事件は、最高裁判所の判決が出た後に、再度高等裁判所で審理されましたが、再び上告されて、令和2年3月30日に、差戻審の最高裁判決が出ました。

同最判令和2年3月30日は、その結論部分において、「本件賃金規定における割増金は、その一部に時間労働等に対する対価として支払われるものが含まれているとしても、通常の労働時間の賃金である歩合給(1)として支払われるべき部分を相当程度含んでいるものと解さざるを得ない。そして、割増金として支払われる賃金のうちどの部分が時間外労働等に対する対価に当たるかは明らかでないから、本件賃金規定における賃金の定めにつき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と労働基準法37条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することはできないこととなる。したがって、被上告人の上告人らに対する割増金の支払により、労働基準法37条の定める割増賃金が支払われたということはできない。」と判示しています。

すなわち、割増金の中に、残業に対する対価である残業代と成果に対する対価である歩合給とが混在しており、どの部分が残業代かを判別することができないため、有効な残業代の支払いとは認められないとしたものです。

歩合給と残業代とを連動させた給与体系を設ける場合には、残業代が明確に区別されているかどうか、残業代を不当に免れていると評価されてしまわないかどうかについて、留意する必要があります。

歩合給は成果に応じて、残業代は時間外労働の時間に応じて、きちんと支払われるように規定し、その通りに運用することが望ましいと言えます。

 

5 最後に

歩合給を設けることにより、成果が出た分だけ給料に反映されるということは、従業員の満足に繋がり、仕事への動機付けにもなります。

一方で、歩合給を支給しているからという理由で、本来は支払わなければならない残業代を支払わないということでは、後々の紛争に繋がりかねません。

また、歩合給の導入により、個人の成果だけを重視し過ぎることによって、職場内で各自が協力し合って成果を上げるという円満な職場づくりができなくなったり、従業員が成果を上げることにプレッシャーを感じ、仕事が苦しみになるとすれば大変残念なことです。

歩合給制度をうまく活用するためにも、弁護士へのご相談をご検討ください。

 

2022年12月01日 | Posted in お役立ちブログ, その他, 企業法務のお役立ちブログ, 太田圭一の記事一覧 | | Comments Closed 

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