残業代請求対応(休憩時間の管理)
1 はじめに
ほとんどの職場では,日々の仕事の休憩時間を,就業規則で定めていると思いますが,決められたとおり,きっちりと休憩時間を確保していますでしょうか。
例えば,休憩時間に休まずに,仕事をしている従業員はいませんか。昼食休憩のときに,電話当番を決めずに,空いている従業員が,電話対応をしているという職場はないでしょうか。また,勤務時間中に,煙草休憩をとる従業員や煙草休憩を容認している職場もあるでしょう。
労働者からの残業代請求にあたっては,休憩時間の有無や長さも往々にして問題となりますので,使用者として,休憩時間を適切に管理する必要があります。
2 休憩時間の定義
まず,休憩時間とは,一般的には,労働時間の途中におかれた,労働者が権利として労働から離れることを保障された時間を言います。
そのため,現実に労働していなくても,自由に職場を離れることができない手待ち時間等は,休憩時間として,労働時間から除くことはできません。
3 労働者の立場から
この休憩時間の有無や休憩時間の長さについて,実務上散見されるケースとして,労働者側から,使用者側に対して,休憩時間が決められているが,実際には休憩がとれていなかったと主張されることがあります。
使用者の立場からすると,就業規則で決めているにもかかわらず,休憩時間に仕事をしていたから労働時間だと主張されること自体,納得がいかないことかもしれませんが,注意すべき点があります。
昼休み休憩中の従業員に,昼休みにかかってくる電話の対応をさせてはいないでしょうか。また,昼休みに仕事をしなければ終わらないほどの仕事を任せてはいないでしょうか。
残業代請求に対応するという目的に限らず,休憩せずに労働することで業務効率は低下すると思いますので,昼休み等の休憩時間に,従業員はしっかりと休憩をとっているかどうか,職場の様子を観察されることをお勧めします。
また,執務スペース以外に休憩スペースを設ける,休憩時間中に電話を取り次がないように電話当番を決める等の対応をしておくことが望ましいと言えます。
4 使用者の立場から
その一方で,使用者の側からは,労働者が,勤務時間中であるにもかかわらず,怠業して,休憩していたため,労働時間ではないとの主張がなされることがあります。
実務上,よく問題となり,裁判でも争われているのが,煙草休憩です。
煙草休憩については,喫煙者と非喫煙者との考え方の違いがありますが,一日に何回も,喫煙の度に10分以上も席を外している労働者がいれば,使用者の立場としては,それは休憩時間とすべきではないかと考えるのは理解できるところです。喫煙者のみ煙草休憩があり,自分達には休憩がないため,不公平だと思う非喫煙者もいると思います。
その一方で,喫煙者の立場からすると,お茶やコーヒーであれば自席で飲めるのに,煙草を吸えないので,毎回わざわざ喫煙所まで出かけているのであって,それを休憩時間だと言うのなら,仕事をしながら喫煙できるようにして欲しいと思うかもしれません。
煙草休憩の取扱いについては,いろいろな考え方があるところですが,次の裁判例が参考になります。
北大阪労基署長事件(大阪高裁平成21年8月25日判決)は,「休憩時間とは,労働者が労働時間の途中において休息のために労働から完全に解放されることを保障されている時間であるところ,仮に控訴人(労働者)が本件店舗内の更衣室兼倉庫で喫煙していたとしても,店内で何かあればいつでも対応できる状態であったから,休息のために労働から完全に解放されていることを保障されているとは到底いえず,休憩時間とはいえない。」と判断し,煙草休憩を休憩時間とは認めませんでした。
その一方で,東京地裁平成26年8月26日判決は,「原告(労働者)らは,昼食休憩のほかに,所定勤務時間中に,1日4,5回以上,勤務していた店舗を出て,所定の喫煙場所まで行って喫煙していたこと,原告らは喫煙のために一度店舗を出ると,戻るまでに10分前後を要していたことが多かったことが認められる。そして,労基法32条の労働時間とは,労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいうと解すべきところ,喫煙場所が勤務店舗から離れていることや喫煙のための時間を考慮すると,原告らが喫煙場所までの往復に要する時間および喫煙している時間は,被告の指揮命令下から脱していたと評価するのが相当であり,昼食休憩にこれら時間を加え,原告らは,1日に1時間の休憩を取得していたとするのが相当である。」と判断しています。
このように,煙草休憩が休憩時間になるか,労働時間に含まれるかは,個別具体的な事案によりますが,煙草休憩を休憩時間として労働時間から控除する為には,執務場所と喫煙場所とを明確に区分したうえ,労働者が煙草休憩ととる回数や休憩時間についても規定を定め,煙草休憩中の労働者には業務を命じないようにするなどの対応が必要だと思われます。
5 最後に
休憩時間は,労働者の健康を維持するために必要なものですから,必ず休憩時間を確保するように法律で定められています。
また,適切に休憩をとることによって,疲労が回復し,仕事にメリハリがついて,業務効率が向上すると言われていますし,休憩の有用性を認めて,昼寝を推進している企業もあるくらいです。
休憩時間を巡るトラブルを防止するとともに,休憩時間をうまく活用し,仕事の効率化を図って,お客様に満足して頂ける仕事をしたいものです。