2022年10月05日

残業代請求対応(残業代の計算方法)

1 はじめに

令和5年4月1日以降は、中小事業主も、労働者に対して、1カ月60時間を超える法定時間外労働をさせた場合には、60時間を超える法定時間外労働について、50%以上の割増率による割増賃金を支払う必要が生じます。

そのため、労働者の残業時間が多い中小事業主にとっては、これまで以上の負担が生じることになります。

これを機に、改めて、残業代の計算方法について確認するとともに、不必要な残業の削減に努める必要があると思います。

 

2 残業代の計算方法

労働者が残業した場合に使用者が支払うべき残業代は、「(1時間あたりの基礎賃金の額)×(時間外、休日、深夜労働の時間数)×(各時間に応じた割増率)」で算出することができます。

単純に言うと、時給(1時間あたりの基礎賃金)を計算し、残業時間でかけた上、割増率で調整するということになります。

 

3 1時間当たりの基礎賃金を算出する

まず、労働者の基礎賃金を、1カ月の所定労働時間で割ることによって、1時間当たりの基礎賃金を算出します。

その際、基礎賃金に含んではいけないものを含んでしまうと残業代の負担が不当に重くなってしまいますし、一方で、基礎賃金に含まれるべきものを含まないと、支払うべき残業代を払っていないことになってしまいます。いずれにしても、基礎賃金の額は、正しく計算をする必要があります。

そして、基礎賃金に含まれない除外賃金は、次のものです。

  • 家族手当
  • 通勤手当
  • 別居手当
  • 子女教育手当
  • 住宅手当
  • 臨時に支払われた賃金
  • 1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金

また、これらの除外賃金に当たるかどうかについては、手当の名目だけではなく、実質的な内容も見て、判断されます。

例えば、扶養家族の有無や人数に応じて算定される手当であれば、上記①の家族手当に該当しますが、家族手当と名前がついていても、扶養家族がいない人にも扶養家族がいる人にも一律に払われているものであれば、除外賃金には該当せず、基礎賃金に加える必要があります。

また、通勤の距離や交通費の額に応じて算出される手当であれば、上記②の通勤手当に該当しますが、通勤手当という名目で、通勤距離や交通費の額とは無関係に、全員に対して一定の額が払われているというのでは、除外賃金には該当しないでしょう。

除外賃金とされるべき家族手当や通勤手当、住宅手当等が、基礎賃金に含まれるという評価がなされてしまわないように、これらの手当について、適切な規定と運用がなされているかどうかを、確認する必要があります。

 

4 割増率について

割増率は、対象となる労働が行われた時間に応じて、次のようになります。

時間外労働(1日8時間以上または週40時間以上) 0.25
時間外労働(1カ月60時間を超える部分) 0.5
休日労働 0.35
深夜労働(午後10時~午前5時の間の労働) 0.25
時間外労働+深夜労働(0.25+0.25) 0.5
1カ月60時間を超える時間外労働+深夜労働(0.5+0.25) 0.75
休日労働+深夜労働(0.35+0.25) 0.6

 

例えば、1時間の基礎賃金が1,500円の従業員が、次のように80時間の時間外労働をした場合の残業代は、以下の通りになります。

A 時間外労働50時間

B 深夜時間外労働10時間

C 60時間を超える時間外労働 15時間

D 60時間を超える深夜時間外労働 5時間

 

A 1,500円×50時間×1.25=93,750円

B 1,500円×10時間×1.5=22,500円

C 1,500円×15時間×1.5=33,750円

D 1,500円×5時間×1.75=13,125円

合計 163,125円

 

5 最後に

中小事業主についても、令和5年4月1日以降は、1カ月60時間を超える法定時間外労働について、50%以上の割増率による割増賃金を支払う義務が生じることになりますが、そもそも、従業員に、月60万円を超える時間外労働をさせることは、従業員の健康の観点からしても望ましくはありません。

単に残業代を減らすことだけを目的にするのではなく、従業員の健康、ワークライフバランスにも配慮をして、誰もが安心して働ける快適な職場づくりに努めたいものですね。

2022年10月05日 | Posted in お役立ちブログ, その他, 企業法務のお役立ちブログ, 太田圭一の記事一覧 | | Comments Closed 

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