2022年07月20日

残業代請求対応 (朝早くに出社する従業員には残業代を支払わなくてよいのか?)

1 はじめに

前回は,適切な労働時間の管理につき,一般的な説明をしましたが,今回は,始業時間の適切な管理について解説します。

定時後の残業については,意識して削減に努めている会社もある一方で,始業時間については,それほど意識をしていないという使用者の方も多いのではないかと思いますが,始業時間前の労働について残業代の未払が生じていないかも確認する必要があります。

例えば,始業時間前に,従業員総出で,社内の掃除をしているという会社はないでしょうか。職場内に,「新入社員は30分前には出社していて当然。」,「自分が若いころは,必ず先輩よりも早く来て仕事をしていた。」などと言って,部下に始業時間前の出社を促している上司はいないでしょうか。渋滞や通勤ラッシュを避けるために,早く出社し,社内で新聞を読んだりコーヒーを飲んだりしている従業員はいませんでしょうか。

このような場合に,会社は,始業時間前に会社に来ている従業員に,残業代を支払う必要があるのかについて考えてみましょう。

 

2 労働時間とは何か

まず,残業代は,労働者が労働した時間に応じて支払われますが,労働時間とは,労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間を言います。

そして,使用者の指揮命令下に置かれているかどうかについて,最高裁判所平成12年3月9日判決(三菱重工長崎造船所事件)は,「労働時間に該当するかどうかは,労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価できるか否かにより客観的に定まるものであって,労働契約,就業規則,労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではない。」と判断しています。

そうすると,就業規則上,午前9時から午後5時までが労働時間だと定められていたとしても,午前9時から午後7時まで労働者を働かせていたら,午後7時までが労働時間になります。就業規則や労働契約に書かれた時間ではないから,労働時間ではないとの主張は通らないということです。

 

3 早出も残業になりうる

また,残業という言葉を聞くと,夕方以降の残業を思い浮かべることが多いと思うのですが,夕方以降に残って働くことだけを残業と考えるのは誤解です。

先述の三菱重工長崎造船所事件も,作業前の更衣室における作業服及び保護具等の装着,更衣室から準備体操場への移動は,使用者の指揮命令下に置かれたものと評価できるとして,労働時間に当たるとしています。

ですから,始業時間前に早く来ている従業員がいる場合には,その従業員に残業代を支払う義務が生じないかどうかを検討しなければなりません。

そのうえで,早出をしている従業員が,会社や上司の指示により,早出をしている場合には,使用者の指揮命令下にあるとして,適切に残業代を支払う必要があります。

先述の例を見てみますと,始業前に社員総出で社内の掃除をしているという会社は,会社が従業員に対して,始業前の清掃業務を命じていると考えるのが通常ですので,会社は,従業員に対して,始業前の清掃業務に費やした時間に応じた残業代を支払わなければなりません。

また,上司が部下に対して,始業時間よりも早く出社することについて,単なる心構えを説いたというにとどまらず,早朝出社するのが当然であるとの印象を与えてしまい,部下が断れなくなってしまったとすれば,始業前に出社して仕事をするように指示をしたことになり,残業代を支払う義務が生じかねません。

その一方で,従業員が自分の都合で会社に早く来て,新聞や雑誌を読んだり,携帯電話を見たりして,自由に過ごしているのであれば,残業代を支払う必要はありません。

 

4 早出残業の指示があったと言われないために

早出残業の指示があったと言われないように,当然のことですが,始業時間前に,従業員に業務をするように指示をしてはいけません。始業時間前に掃除をさせたり,仕事の準備をさせたりせず,必要な業務であれば,必要な業務として,始業時間後に行わせる必要があります。また,朝礼についても,始業開始後に行いましょう。

また,職場によっては,若手は早く来て当然と言う雰囲気があるかもしれませんし,朝早くから出社している従業員がいるかもしれませんが,これにも気を付ける必要があります。上司から,部下に対して,「俺が新人の頃は,毎朝1時間前には出社していた。」などと頻繁に言っていると,事実上,早出を強制してしまったと言われかねません。自主的な勉強や自己研鑽の為に,早く出社する従業員に対して,仕事をしているという前提で残業代を支払う必要があるとまでは言えないでしょうが,早出を強要する職場環境となっていないかについて,気を配る必要があるかと思います。

渋滞や通勤ラッシュを避けるために会社に早く来ている従業員は,その従業員が自分の判断でそうしているに過ぎませんので,残業を命じている訳ではありません。ただし,その従業員が,仕事をしていることを知って放置していれば,黙示の指示があったとして,残業代を支払うことになる可能性もあります。渋滞を避ける為などの理由で,早く来る従業員については,会社の休憩室などで自由に過ごしてもらい,仕事の為にオフィスに入る時にタイムカードを押してもらうのが適切だと考えられます。

 

5 最後に

誰よりも早く会社に来て仕事を始めると言うのは美徳であり,やる気や向上心がある従業員なのかもしれませんが,早く出社するようにということは,会社や上司が命じることではありません。必要な業務は,必ず始業時間後に命じるようにする必要があります。

また,個人的な事情があり早く来る従業員についても,早出残業をさせていたと言われないために,休憩場所の確保,オフィスへの立ち入り制限等,必要な措置を検討することが望ましいと言えます。

都合により早く会社に来なければならない従業員に対しては休憩する場所を確保したり,必要な早出残業をしている従業員には残業代を支払ったりすることは,使用者として,従業員を大切にするという姿勢を示すことであり,従業員の安心と納得に繋がると考えられます。

 

 

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2022年07月20日 | Posted in お役立ちブログ, 企業法務のお役立ちブログ, 太田圭一の記事一覧 | | Comments Closed 

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