2022年12月23日

特定商取引法改正について

1 はじめに

特定商取引法とは、悪質商法等の被害が生じやすいと言われている次の7つの取引類型を対象として、消費者を保護するルールを定めた法律です。

すなわち、①訪問販売、②通信販売、③電話勧誘販売、④連鎖販売取引、⑤特定継続的役務提供、⑥業務提携誘因販売取引、⑦訪問購入の7類型については、従前、様々な業者によって消費者が不利益を受けるという被害が生じていましたので、事業者に対する規制を定めて、消費者を保護しているのです。

そして、時代の変化、テクノロジーの進展に伴い、いわゆる悪質商法というものも、日々刻々と変化していきますから、消費者が、新しい形の消費者被害に巻き込まれないように、あるいは悪質商法に巻き込まれたときに被害回復が容易となるように、特定商取引法も随時改正されています。

令和3年6月9日に、特定商取引法等を改正する法律が成立しており、改正点の多くが令和4年6月1日に施行されています。改正内容は多岐に渡りますが、テクノロジーの進展に伴う変化として、「クーリングオフ通知の電子化対応」、比較的最近増えている悪質商法に対する規制として、「通信販売の『詐欺的な定期購入商法』対策」が大きな改正点となります。その他、細かな改正点もありますので、順次解説します。

 

2 クーリングオフの電子化対応

クーリングオフの行使期間は、消費者が事業者から法定書面を受領してから8日間、連鎖販売取引と業務提携誘因販売については20日間です。

これまで、クーリングオフの通知は、書面で送る必要がありましたが、令和4年6月1日以降は、書面に加えて電子メール等の電磁的記録によってもクーリングオフの通知を送ることができるようになりました。

電磁的方法によるクーリングオフの通知方法としては、電子メールの送付、FAXによる通知、ウエブサイト上のフォームを用いた通知、通知書のデータが入ったUSBメモリの送付等の方法が考えられます。

書面を作成しなくても、電磁的方法によって、クーリングオフをすることができますので、より簡単にクーリングオフができるようになったと言えます。

事業者の立場として配慮する点としては、まず、消費者に交付する書面に、書面によりクーリングオフができる旨を記載していたところを、書面または電磁的記録によってクーリングオフができる旨に変更する必要があります。

また、各事業者においては、それぞれの事業環境等も踏まえて、合理的に可能な範囲で電磁的記録による通知の方法に対応する必要があります。

例えば、契約時に消費者に交付する書面に、クーリングオフの通知先としてクーリングオフの担当部署のメールアドレスを記載しておけば、消費者はそのメールアドレスにクーリングオフのメールを送ればよいですし、事業者としても、他の電磁的記録による方法(例えば、FAXやUSBの送付)ではなく、メールで通知を受け取ることが増えると考えられ、クーリングオフがなされたかどうかの確認や管理がしやすいと思います。

なお、クーリングオフの効力は、消費者が、クーリングオフ通知を発信したときに生じますので、クーリングオフ期間経過後に届いた通知であっても、発信が期間内であればクーリングオフの効果が生じてしまいます。

そのため、消費者が電磁的記録によるクーリングオフを発したかどうか、いつ発したかどうかに関する紛争が生じないように、事業者の立場としては、電磁的記録によるクーリングオフを受けた場合は、消費者に対して、クーリングオフを受け付けた旨を電子メール等で連絡することが望ましいと言われています。

 

3 事業者が交付すべき書面の電子化

テクノロジーの進展に伴い、企業間取引においては、従来の紙ベースの契約書ではなく、電子契約が用いられることが増えています。その一方で、一般消費者との取引においては、いつまでも書類のデジタル化が進まないのは、都合が良いとは言えないでしょう。

そこで、法改正により、事業者が交付すべき契約書面等について、電磁的方法によることが可能となりました。具体的には、事業者が、消費者に対して、メールの送付等の電磁的方法によって契約書面等を交付することができるようになる見込みです。

ただし、紙ベースの契約書面等を希望する消費者もいますので、電磁的方法による交付をする場合には、消費者の事前の承諾が必要です。

なお、この事業者が交付すべき書面の電子化に関する改正は、令和4年12月現在、まだ施行されていません。

 

4 通信販売の「詐欺的な定期購入商法」対策

まずは、「詐欺的な定期購入商法」対策とはどのようなものか、なぜ改正が行われたのかについて、解説します。

ネットサーフィンをしていると「初回無料」または「初回特別価格」を強調した健康食品等の広告が出てきたり、インターネットで動画などを見ていると、いつでも解約可能と謳ったサプリや化粧品の動画広告が再生されたりすることがあります。

広告を見て、初回だけのつもりやすぐ解約できると思って購入したところ、実際は、定期的な購入で通常価格で数回購入しなければならないという条件が、小さく表示されていたり、離れた場所に表示されていたりして、解約することができず、消費生活センターへの相談も増えていました。

そこで、詐欺的な定期購入契約への対策を主たる目的として、通信販売に関する新たな規制が設けられています。

ただし、詐欺的な定期購入契約への対策が主眼であるとしても、今回の法改正には、通信販売一般に対して適用される規制も含まれているので、注意しておく必要があります。

(1)広告表示規制の拡大

通信販売の広告について、商品若しくは特定権利の売買契約又は役務提供契約に係る申込みの期間に関する定めがある時は、その旨及びその内容を明示する義務が新たに規定されました。

すなわち、「今だけ」という売り文句で商品を販売する場合には、期間限定販売であることとその内容を明示し、消費者に誤解を与えないように留意する必要があります。

また、法改正前は、売買契約の申込みの撤回・解除に関する事項が通信販売の広告に表示すべき事項として定められている一方で、役務提供契約の申込みの解除・撤回については広告表示の対象とされてはいませんでした。今回の法改正によって、役務提供契約に係る申込みの撤回・解除に関する事項についても、広告に明示する必要が生じました。

さらに、法改正前から、商品の定期購入について、定期契約である旨及び金額、契約期間その他の販売条件を広告に表示する義務があったところ、法改正により、適用範囲が拡大され、特定権利の売買契約と役務提供契約も対象となりました。したがって、通信販売によって締結されるサブスクリプションサービス全般について、定期契約であること、金額や契約期間等の販売条件を広告に明記する必要があります。

(2)「特定申込み」の創設

今回の法改正により、「特定申込み」に関する規制が新設されました。

この「特定申込み」とは、通信販売において、事業者所定の申込み用葉書を使用する場合やインターネット上で最終確認画面をもって申込みをするなど、事業者が定める様式等によって申込みが行われるものを言います。

そして、この「特定申込み」に該当する場合には、申込み書面や申込み画面に、①商品等の分量、②対価、③商品等の引渡時期、④代金の支払時期、⑤申込み期間の期間の定め、⑥申込みの撤回または解除に関する事項を明示しなければなりません。

また、申込み内容について誤認させるような表示も禁止されており、罰則も設けられています。

さらに、事業者が、表示規制について、不実の表示をしたり、表示すべき事項を表示しなかったりしたこと等により、消費者が誤認して特定申込みをした場合には、その申込みを取り消すことができるようになりました。

(3)不実告知の禁止

消費者が通信販売に係る売買契約等の申込みを撤回したり、解除したりすることを望んでいたとしても、事業者から解除ができない等と事実に反することを言われて、解除を断念してしまうと、消費者の利益が不当に害される結果となってしまいます。

そこで、事業者が消費者に対して、通信販売について、申込みの撤回や解除に関する事項等について、不実の告知をしてはならない旨の規定が新設されました。

 

5 送り付け商法対策

送り付け商法対策に関する法改正は、令和3年7月6日に施行済みです。

まず、送り付け商法とは、売買契約の申込みもしていない消費者に対して、一方的に商品を送りつけて、消費者がその商品を受取ったことなどを理由として契約が成立したと強弁し、一方的に代金を請求する商法のことです。

送り付ける商品には様々なものがあり、健康食品もあれば、カニ等の海産物もあります。

改正前の特定商取引法においては、消費者は、送り付けられた商品を受領した日から一定期間その商品を保管しなければならないとされていましたが、法改正により、一方的に商品を送り付けられた場合、受領後直ちにその商品を処分することができるようになりました。

 

6 その他の改正点

インターネットを使って、日本にいる個人が、海外の業者と取引をすることが容易になりましたので、外国の販売業者と日本の消費者とのトラブルも増える一方です。海外にいる悪質な業者を取り締まるためには、各国との協力や情報交換が必要となりますので、今回の法改正により、主務大臣が外国執行当局に、その職務の遂行に資すると認められる情報を提供できるようになりました。

また、今回の改正によって、立入検査権限が拡充され、業務停止命令・業務禁止命令の対象となる法人の役員等の範囲が拡大されるなど、行政処分の実効性が強化されています。

 

7 最後に

特定商取引法は、適切に消費者を保護するため、悪質商法の傾向やテクノロジーの進展に伴い、随時改正がなされていますので、定期的に情報をアップデートし、自社の広告方法や契約書等の記載等が、法改正に追いついているかどうかを確認する必要があります。

今回の法改正は多岐にわたり、クーリングオフ通知や事業者が交付すべき書面の電子化対応、「特定申込み」に関する規制等、重要な変更がありますので、気になる点がありましたら、顧問弁護士等の弁護士にご相談ください。

2022年12月23日 | Posted in お役立ちブログ, その他, 企業法務のお役立ちブログ, 太田圭一の記事一覧 | | Comments Closed 

関連記事