2021年08月30日

労働組合との交渉時の注意点

労働組合との交渉時の注意点

1 誠実交渉義務
前回,団体交渉の拒否が,不当労働行為として禁止されていると解説しました。
そのため,使用者には,労働組合からの団体交渉に応じる義務がありますが,その使用者の団体交渉に応じる義務の中には,誠実交渉義務が含まれていると考えられています。
すなわち,使用者は,労働組合と誠実に交渉しなければならず,労働組合の要求や主張に対して,できるだけ具体的な理由を挙げつつ回答するように努力しなければなりません。
ただし,使用者には,労働組合の要求や主張を受け入れたり,使用者の主張を譲歩したりしなければならないという義務まではありませんので注意が必要です。
交渉を重ねた結果,意見が平行線となり交渉打ち切りに至ることもありますが,だからといって使用者が誠実交渉義務に反したとは言えません。
団体交渉に応じる義務や誠実交渉義務があるからと言って,何でもかんでも労働者や労働組合の要求に応じなければいけないというのは誤りです。誠実交渉義務違反を恐れるがあまり,不必要に労働組合の主張を受け入れてしまうことも適切とは言えません。
そこで,使用者として,誠実交渉義務を尽くしながらも,労働組合とどのように対峙すればよいのか,団体交渉の留意点について,詳しく見ていきましょう。

2 団体交渉の条件について
労働組合との団体交渉に際して,本題に入る前の前提条件として,団体交渉の日程場所交渉の時間参加人数,団体交渉時のルール等について,労働組合の要望と使用者の希望との間に,齟齬が生じることがあります。
そのようなときに,使用者の側が,団体交渉の日程,場所,時間,参加人数等の団体交渉の方法や条件について,不合理な主張に固執して,労働組合との団体交渉を行わなかった場合,それだけで誠実交渉義務に違反したとされることもありますので,注意が必要です。
例えば,会社の本社も労働組合の所在地も金沢にあるにもかかわらず,敢えて,東京や大阪,名古屋で開催するように回答する,団体交渉の申入れがなされてから数か月後の交渉期日を設定するとか,一見して合理性を欠く対応はすべきではありません。
また,社外の会議室等交渉場所の確保や回答内容の協議や資料の準備等,使用者側にも交渉に臨むための時間が必要ですが,あまりにも交渉を先延ばしにすることは不誠実ととられかねません。
裁判所で争われた事例においても,団体交渉の条件について,東京高判昭和62年9月8日(商大自動車教習所事件)は,交渉を2時間,参加人数を5人以内とするというルールに固執し,そのルールができない以上は団体交渉を行わないとした使用者につき,団体交渉義務に違反したと判断しています。
また,使用者が書面の交換による協議に固執し,労働組合と直接話し合うことを拒否した場合に,誠実交渉義務違反があるとした判例があるため,この点も注意が必要です。

3 交渉担当者
団体交渉に誰が出席するかについても,労働組合と使用者間で,意見の対立が生じることがあります。
労働組合は,使用者における上位者,例えば会社の社長取締役を交渉の場に出させるように要求し,使用者としては,そのような立場の人ではなく,実務担当者を出したいと考えることが多いでしょう。
まず,交渉権限を有する者を1人も出席させなかったりして団体交渉の進行を無意味にするみせかけの団体交渉は,許されないと言えますので,使用者の側としては,そうならないように気を付ける必要があります。
また,裁判例のなかには,使用者側の交渉担当者が実質的な交渉権限を与えられておらず,労働組合の要求を聞き置く又は責任者と相談のうえ後日回答するという返答に終始するような場合,担当者が団体交渉において形式的一般的な回答が記載されたメモを読み上げ,具体的な回答理由の説明や資料の提示をせず,労働組合からの質問にも権限がないことを理由に回答しなかったうえ,労働組合からの回答能力又は権原がある者の出席の求めに対して使用者がこれを拒否した場合は,誠実交渉義務に違反すると判断されたものがあります。
一方で,交渉担当者が必ずしも最終的な決定権限を有することまでは要しないとした労働委員会の判断もあるため,交渉担当者が団体交渉の場で即答できず,回答の猶予を求めることそれ自体は,その理由や態様等に照らして,不誠実とは評価されない場合もあり得ます。
誰を交渉担当者とするかについては,使用者側の事情ですので,使用者の裁量が広く認められるべきだと考えますが,交渉担当者には何の権限も与えられておらず,交渉を行う意味がないような場合には,不当労働行為であるとの謗りを受けてしまいかねませんので,留意が必要です。

4 交渉姿勢
次に,交渉態度交渉姿勢について,説明します。
誠実交渉義務には,譲歩,応諾義務を含まないので,使用者が自己の見解に固執することそれ自体は,当然に誠実交渉義務違反になるものではありませんが,使用者の見解が合理性を疑われる内容である場合やその見解の根拠を十分に説明しなかった場合には,使用者には,団体交渉における譲歩,紛争解決意図がなかったと推定されてしまい,誠実交渉義務違反とされる場合があります。
例えば,①回答拒否や一般論のみで実質的論議に入らない中身のない団体交渉,②自己の主張の具体的説明,根拠や資料を示さない結論だけの団体交渉,③合理性のない条件に固執して譲らない団体交渉,④急に無理な内容の新提案をする等の困惑を意図する団体交渉は,控えるべきでしょう。
労働組合との交渉姿勢については,東京地判平成元年9月22日(カールツァイス事件)が,「使用者は,自己の主張を相手方が理解し,納得することを目的として,誠意をもって団体交渉に当たらなければならず,労働組合の要求や主張に対する回答や自己の主張の根拠を具体的に説明したり,必要な資料を提示するなどし,また,結局において労働組合の要求に対し譲歩することができないとしても,その論拠を示して反論するなどの努力をすべき義務があるのであって,合意を求める労働組合の努力に対しては,右のような誠実な対応を通じて合意達成の可能性を模索する義務があるものと解すべきである。」と判断しており,参考になります。
他にも,労働組合からの賃上げ要求に対して,労働組合が検討し得るに足る資料の提示や具体的な説明を十分に行わないまま単に利益があがらないとの理由のみでゼロ回答に終始したことが,誠実交渉義務違反になると判断した裁判例もあります(大阪地判昭和55年12月24日 大阪特殊精密工業事件)。
このように,労働組合との団体交渉については,回答した内容だけではなく,その説明や根拠が問題とされるため,気を付けなければなりません。
また,労働組合が相当具体的な要求をしている場合,当該要求に関する使用者の回答につき労働組合の納得を得るためには,資料の提示やそれに基づく具体的な説明が不可欠な場合があり得ます。このような場合には,使用者の回答内容の合理性の有無を問わず,使用者が回答根拠の具体的な説明や資料提示をしない又は不十分であったこと自体が誠実交渉義務違反とされることもあります。

5 最後に
団体交渉においては,使用者側の主張をまとめ,その主張を裏付ける資料を準備し,交渉に臨むことが肝要です。
そのため,準備のための時間を確保しなければならず,誠実交渉義務違反を気にするあまり,喫緊の日時に団体交渉を行い,準備が疎かになってはなりません。
また,労働組合との交渉においては,使用者側の主張について,十分な時間を取って説明をするとともに,根拠も示す必要があります。使用者の側で,労働組合の要求に対して,使用者として必要な根拠資料は何かを判断し,開示請求に応じるべきであって,労働組合から出せと言われた資料を全て出すというのも,必ずしも妥当ではありません。
使用者としては,裁判になった場合に,どのような点が問題となり,どのような回答をすればよいか,裁判ではどのような資料を出すかを念頭に置きながら冷静に対応することが重要だと思います。
また,交渉過程の記録化も大切だと考えます。
そうは言っても,結局のところ,何が誠実な交渉かということについては,使用者と労働組合との間で意見と評価が分かれやすいところでありますので,過去の判例も参照しつつ,労働組合から揚げ足を取られないように慎重に対応する必要がありますので,弁護士への相談や依頼をご検討頂ければと思います。

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