2021年03月24日

プロ野球選手会は労働組合か?

労働組合とは何か(プロ野球選手会は労働組合か?)

 

1 労働組合の種類
労働組合と聞いてどのようなイメージを持たれるでしょうか。
従来、終身雇用、年功序列と並んで、日本企業の特徴の一つとされた企業別労働組合を思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれません。また、毎年5月1日に賃上げを求めてデモ行進を行う団体、特定の企業の玄関先でビラ配りや街宣活動をする団体など、労働組合の活動と聞くと、様々な場面を想起されることと思います。
そこで、まずは労働組合とはどのようなものかについて、労働組合の種類から説明したいと思います。
労働組合の種類としては、①職業別組合、②産業別組合、③企業別組合、④一般労組、⑤地域労組があります。
まず、職業別組合とは、同一職業の労働者が自分達の技能に関わる利益を擁護すべく広い地域で組織する労働組合です。職業別組合の特色は、その職業や職種の熟練労働者の利益保護を目的としたものとされ、比較的小規模なものが多いとされています。具体例としては、JR機関区の労働者で組織された動力者労組が職業別組合の性格を有すると言われています。
また、産業別組合とは、同一の産業に従事する労働者が直接加入する大規模な横断的労働組合のことです。全日本海員組合のような例があります。
次に、企業別組合とは、特定の企業または事務所で働く労働者を職種の別なく組織した労働組合です。日本企業の特徴として企業別組合が挙げられていたように、日本の労働組合の多くは、この企業別労組と言われています。
そして、一般労組は、職種、産業の如何を問わず、広い地域にわたって労働者を組織する労働組合、地域労組は、労働者を一定地域において企業、産業に関わりなく合同して組織化した労働組合のことです。
労働組合の数からすれば、従来からの企業別組合が多いと言えます。ただし、弁護士が相談や依頼を受けるケースとして、最近よく見られるのは、解雇等の不利益な処分を受けた労働者が地域労組に相談に行き、地域労組から団体交渉の申入れを受けたというものです。
そのため、使用者の立場としても、地域労組からの団体交渉申し入れに対する実務上の対応を知っておく必要があります。

 

2 労働組合法上の労働者
さて、労働組合の種類とは違う観点から労働組合を考えてみましょう。
労働組合を組織できる「労働者」とは誰かという問題です。
労働者と聞くと、会社勤めをするサラリーマンや、工場で製造業に従事する工員を思い起こす人もあると思いますが、必ずしもそれだけに限りません。
平成16年に、当時の大阪近鉄バファローズとオリックスブルーウェーブの統合をめぐって、プロ野球選手がストライキを行ったことがありました。プロ野球選手は個人事業主と考えられていますから、労働組合を結成したり、ストライキをしたりしたことに、違和感を覚えた方もいらっしゃるかもしれません。ですが、プロ野球選手が加入しているプロ野球選手会もれっきとした労働組合であり、プロ野球選手も労働組合法という法律上は「労働者」となるのです。
ですから、一般的に考えられているよりも、労働組合を結成したり、労働組合に加入したりできる労働者の範囲は広いと言えます。
この点に関して、現実に裁判所で争われたものとしては、オペラ歌手の事件があります。オペラ歌手は、勤めて固定給を貰っているというよりは、依頼に応じて出演し報酬を得ていると考えられるため、労働組合法上の労働者に当たるかどうかが争われました。
そして、最高裁判所平成23年4月12日判決(新国立劇場運営財団事件)は、「オペラ公演を主催する財団と出演基本契約を締結して各公演に出演していた契約メンバーについて、出演基本契約は契約メンバーを各公演の実施に不可欠な歌唱労働職として財団の組織に組み入れていたものであること、当事者の認識や契約の実際の運用においては契約メンバーは財団からの出演の申込みに応ずべき関係にあったといえること、出演基本契約の内容は財団により一方的に決定され契約メンバーの側に交渉の余地があったとはいえないこと、契約メンバーは財団の指揮監督の下において歌唱の労務を提供しており時間的にも場所的にも一定の拘束を受けていたこと、超過稽古手当を含む報酬は歌唱の労務の提供それ自体の対価であるとみるのが相当であることなどの事情を総合的に考慮すれば、契約メンバーは労働組合法上の労働者に当たる。」と判断しました。
オペラ歌手は出演のシフトに組み込まれていたうえ、報酬を含む契約内容も一方的に決められていたことなどからしても、実際は仕事を断る自由や契約内容を交渉する自由はなかったため、オペラ歌手は労働者とされたのです。
また、雇用契約ではなく業務委託契約を結んでいても、労働組合に加入できるケースもあるため注意が必要です。
上記の判決と同日に出された最高裁判所平成23年4月12日判決(INAXメンテナンス事件)は、「親会社製品の修理補修等を業とする会社と業務委託契約を締結して修理補修業務を行っていたカスタマーエンジニア(CE)について、CEは会社の事業遂行に不可欠な労働力としてその恒常的な確保のために会社の組織に組み入れられていたものであること、業務委託契約の内容は会社が一方的に決定していたこと、時間外手当等を含むCEの報酬は労務提供の対価としての性質を有するものといえること、当事者の認識や契約の実際の運用においてCEは基本的に会社による業務の依頼に応ずべき関係にあったといえること、CEは会社の指定する業務遂行方法に従いその指揮監督の下に労務の提供を行っており、場所的にも時間的にも一定の拘束を受けていたものといえることなどの事情を総合考慮すれば、CEは労働組合法上の労働者に当たる。」としています。
この最高裁判所の裁判例からも明らかなように、労働者との間で、雇用契約ではなく業務委託契約を結ぶと言う形式を整えたとしても、実質的に労働者としての実態があれば、労働組合法上の労働者になりますから注意が必要です。

 

3 最後に
労働者が労働組合に加入し適法に団体交渉を申し入れた場合、使用者は、不当労働行為とならないように、誠実に対応しなければなりません。
ただし、その前提として、交渉の申入れがあった場合、申し入れて来た団体が本当に労働組合かどうか、労働組合法上の労働者かどうかを見極める必要があります。
多くの使用者の皆様にとって、労働組合から団体交渉の申入れがなされるということ自体、経験がないことであり、どう対応してよいかわからないことだと思いますので、まずは弁護士に相談して頂くことが大切だと思われます。
今回は、そもそも労働組合とは何か、労働組合を組織できる労働者とはどのようなものかを見てきました。次回以降は、団体交渉の留意点についてお伝えしたいと思います。


執筆者プロフィール
弁護士紹介|太田 圭一弁護士 太田圭一 >>プロフィール詳細
1981年滋賀県生まれ。
離婚問題や相続問題に注力している。
悩みながら法律事務所を訪れる方の、悩み苦しみに共感し、その思いを受け止められるように努めています。
2021年03月24日 | Posted in 未分類 | | Comments Closed 

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