【企業法務】「これってセクハラ?」とビクビクしている皆さまへ・セクハラの2つの種類「言葉」と「行動」について学ぶ~行動編~
「それって、セクハラ!訴えてやる!」と言われるのではないかと思うと、女性従業員にどう声をかけてよいか分からないという経営者や管理職の皆さまへ、と書き始めた本コラムも第4弾になりました。
◆「これってセクハラ?」とビクビクしている皆さまへ・セクハラ事例から学ぶ境界線
◆「これってセクハラ?」とビクビクしている皆さまへ・セクハラの2つの種類「言葉」と「行動」について学ぶ~言葉編~
「女性従業員を食事に誘うと即セクハラなのか?」と深刻に悩んでいる管理職の方がいらっしゃいました。今回は、どんな「行動」がセクハラにあたるのか検討してみたいと思います。
セクハラとは
これまで同様、
①職場において
②相手の意に反した
③性的な言動で
④就業環境が悪化したといえるか
検討しながら環境型セクハラの成否を考えてみましょう。
セクハラの2つの種類「言葉」と「行動」について学ぶ~行動編~
次のような行動が職場において行われた場合はどうでしょうか。
(1)二の腕を触ったらセクハラとなるのか?
(2)ハグしたらセクハラとなるのか?
(3)ご飯やデートに誘ったらセクハラとなるのか?
(4)プレゼントを渡したらセクハラとなるのか?
(1)二の腕を触ったらセクハラとなるのか?
特定の女性社員と話をする時だけ接近する、その際に二の腕を触ったりするというのは、性的な行為であり、労働環境を悪化させる行為です。
また、頑張れと励ますつもりであっても、肩や二の腕に触れるのは職場では不要な行為です。
不快に感じる人も多く、場合によっては相手の労働意欲を低下させることもある行為、すなわちセクハラとなる可能性が高い行為ですので、十分に気をつけてください。
二の腕だけではなく、相手の体に触るのは原則として避けるべきです。
(2)ハグしたらセクハラとなるのか?
相手に抱きつく行為がセクハラにあたるのは争いがないでしょう。
女性の同意があれば抱き付いても良いのだろうと言う人もあるのですが、同意があると思っていたら実は勘違いだったということがままあります。
後でトラブルになることが多いので、職場では避けるべき行為といえます。
特に、周りに人がいない二人っきりの場所、狭い車内や出張中の宿泊先でこのような行為が行われた場合には、相手に与える精神的なプレッシャーは相当高いものがあります。
場合によっては強制わいせつ罪等の犯罪にあたる場合もありますから絶対にやめて下さい。
(3)ご飯やデートに誘ったらセクハラとなるのか?
同じように食事に誘っていても,単に同僚とご飯を食べに行く場合と,それ以上の個人的な関係を求めて誘う場合があり得ます。
食事かデートかは明確に分けられないことも多いと思いますが,ここでは,交際を前提にしていることを双方が何となくでも感じている場合をデートの事例,それ以外を食事の事例として検討してみたいと思います。
食事の場合
まずは食事にの事例について検討します。
管理職の方とお話ししていると、セクハラと言われるのが怖くて女性社員を食事に誘うことができなくなったと嘆いている方もありますが、仕事の打ち上げ、職場の懇親を深めるために同僚を食事に誘う行為そのものは性的な行為とまではいえず、セクハラとはいえません。
ただし、他にも対象者がいるのに特定の女性ばかりを食事に誘ったり、何度も断られているのにしつこく誘う等という行為は、性的な行為であって、就業環境を害する行為としてセクハラにあたりますので気をつけてください。
悩ましいのは、例えば、男性上司が担当の女性部下と胸襟を開いて話をするために食事に誘う場合や、何か問題が起きて個人的に注意しなければならない時に相手の気持ちを和らげるために食事に誘う場合です。
これも、食事に誘っただけでただちにセクハラにあたるとは言えません。
ただし、ランチなのか、ディナーなのかで相手が受ける印象も異なってきます。
元財務事務次官の例でも分かるように、夜遅くまでお酒の出る場に付き合わせたというような場合には、やはりセクハラにあたる可能性が高いので、業務の必要性があるのであればその目的にかなったお店を選ぶことが必要です。
繰り返しますが,こちらに性的な意図がなかった,お酒が出る場の方が和むと思っていたと考えていたとしても,女性の方が性的な言動と受け取ってセクハラだと言われる可能性があります。
ですから、女性が断ろうと思えば断れる状況を整える配慮が必要ですし、相手に性的な意図を持って誘っているのではないことが分かるように,食事をする目的を伝えることや,他の同僚に食事の場を伝えておくことなどの対応が必要です。
デートに誘う場合
次に、単に食事に誘うだけではなく、より個人的な関係を求めてデートに誘うのはどうでしょうか。
性的な言動であることは間違いありません。
デートの誘いを断った後、人間関係がギクシャクして、就業環境を悪化させる場合にはセクハラにあたります。
逆に、互いが了承していればデートに誘い誘われる行為は当然ながらセクハラの問題にはなりません。
しかし、デートに誘った方は女性が承諾してくれたと思っていても、女性にとっては上下関係があるために不本意ながら誘いを断れないという場合は決して少なくありません。
また、女性としては上司の誘いを断るとしても、今後の人間関係を慮ってキッパリと断ることができずに「また誘ってくださいね」等と言い添える場合が少なくありません。
それを真に受けて、何度断られても繰り返しデートに誘った行為がセクハラと認められたケースはいくつもあります。
なお、後でセクハラの被害を訴えられるケースには、男性側がデートの誘いに応じてくれたと思い込んでいた事案(「勘違い型セクハラ」と言った方が分かりやすいでしょうか。)が実はとても多いのです。
職場で出会った女性をデートに誘うことが全てセクハラにあたるわけではありません。
けれども、仮に当初は女性も納得してデートに応じていたとしても、関係が悪化した後で振り返ってみるとデートに応じたのは上下関係があったために断れなかったと思えてくる場合があります(こういうケースはかなり多いのです)。
女性が、デートに応じたのは本意ではなかったが断れなかったと主張した場合に、女性の同意を証明するのはとても難しいことです(「手のひら返し型」セクハラとでも言いましょうか)。
それをよく承知して頂いて、特に上下関係がある女性を誘う場合には十分に気をつけてください。
(4)プレゼントを渡したらセクハラとなるのか?
プレゼントを渡すのはどうでしょう。
クリスマス、ホワイトデー、出張や海外旅行等の機会に、職場のみんなにプレゼントをするのは問題ありません。
社員全員に誕生日のプレゼントを贈っているという場合もセクハラにはあたりません。
けれども、特定の女性だけにプレゼントを渡す行為は、性的な言動といえます。
特に、不相応に高価なもの、直接肌に付けるような下着やアクセサリー等、親密な関係を求められていると相手が感じるようなものを贈るのは職場では不適切であるばかりでなく、相手の労働意欲を低下させ、セクハラにあたる可能性があります。
例えば、あるプロジェクトを成功させた女性部下をねぎらうという理由でデパートに同行し、スーツと靴をプレゼントした男性上司の行為について、後日セクハラとして会社に通報された事例が報告されています。