2019年07月22日

【企業法務】「これってセクハラ?」とビクビクしている皆さまへ・セクハラの2つの種類「言葉」と「行動」について学ぶ~言葉編~

「それって、セクハラ!訴えてやる!」と言われるのではないかと思うと、女性従業員にどう声をかけてよいか分からないという経営者や管理職の皆さまへ、と書き始めた本コラムも第3弾になりました。

過去のコラムはこちら

◆「これってセクハラ?」とビクビクしている皆さまへ

「これってセクハラ?」とビクビクしている皆さまへ・セクハラ事例から学ぶ境界線

先日も、ある経営者の方から「女性従業員を『ちゃん』付けしたり、年齢を聞いたらセクハラになるのか」と質問を受けました。

今回は、具体的な「言葉」を例に挙げながら検討してみたいと思います。

セクハラとは

前回のこのコラムで、セクハラには「職場において行われる性的な言動で女性労働者の対応によりその労働条件につき不利益を受ける」対価型セクハラと、「職場において行われる性的な言動で当該女性労働者の就業環境が害される」環境型セクハラがあるとご紹介しました。

セクハラに関する裁判等が行われる中で、対価型セクハラは確実に減っているようですが、逆に経営者や管理職の皆さんが頭を悩ませているのは環境型セクハラの境界線だと言われます。

そこで、前回同様に
①職場において
②相手の意に反した
③性的な言動で
④就業環境が悪化したといえるか
検討しながら環境型セクハラの成否を考えてみましょう。

セクハラの2つの種類「言葉」と「行動」について学ぶ ~言葉編~

職場において、このような発言が行われたらどうでしょうか

(1)ちゃん付けしたらセクハラとなるのか?
(2)呼び捨てしたらセクハラとなるのか?
(3)年齢を聞いたらセクハラとなるのか?
(4)太った?などと聞いたらセクハラとなるのか?
(5)服装や化粧について発言したらセクハラとなるのか?

(1)ちゃん付けしたらセクハラとなるのか?

女性のファーストネームを「ちゃん」付けで呼ぶ場合、性的な言動と受け止められることが多いと思われます。

精神的な距離感を無遠慮に詰め寄られたと感じさせるセクシャルな意味での「性的」なだけでなく、女性を一人前の社会人と見ていない、半人前扱いしているという印象をも与える言動です。

その意味では、ファーストネームの「ちゃん」付けには、男性よりも女性は能力や社会的な立場が下だということを前提にするジェンダー的な側面も関係しています。

こうした呼びかけが、その社員や周りの社員の就労意欲を害したり、その人が能力を発揮することを阻害して、就業環境を悪化させたと認められるかは頻度等にもよりますので、ただちにセクハラになるとは言えません。

しかし、ある国立大学の職員が、女性職員に「ちゃん」で呼びかける私的メールを数ヶ月で40通ほど送ったことにより停職になった事例もあります。

また、警察庁の女性警視が同じ階級の男性の同僚から「ちゃん」付けで呼ばれるなどのセクハラを受けて抑うつ状態になるなどしたとして、公務災害の認定を受けていたことも報じられていました。

たかが「ちゃん」付けではなく、十分に注意して頂きたいと思います。

(2)呼び捨てしたらセクハラとなるのか?

呼び捨ての場合は、男性女性限らず呼び捨てにする人もいますから、必ずしも性的な発言とはいえないかも知れませんが、女性だけにファーストネームを呼び捨てで呼びかけるような場合は、性的な行為にあたる場合が多いと思われます。

逆に、上下関係を明確にする呼び方ですから、威圧的な発言とあわせて行われる場合にはパワハラ等にあたる可能性がでてきます。

(3)年齢を聞いたらセクハラとなるのか?
(4)太った?などと聞いたらセクハラとなるのか?

年齢や太った?などと体型について、女性に聞くのは性的な言動と言えなくもありません。

年齢や体型の変化を一度聞いただけで就業環境を悪化させたとしてセクハラと認められるケースは少ないと思います。

しかし、女性社員の年齢をあげつらい、その歳ではもう結婚できない(もらい手がない)とか、子供は諦めなければとか、その歳で彼氏もいないのか、とか、まだ処女なのかという発言は、その人の人格を傷つけて、結果としてその人や周囲で聞いている人の労働意欲を低下させるもので、セクハラといます。

何よりも言われた相手を深く傷つける言葉です。

発言する側は、軽い気持ちで言っていることもあるようですが、十分に気をつけて下さい。

また、太ったことを妊娠に結びつけて、産休や時短は他の人に負担をかけるからその前に辞めて欲しい等とにおわせるような発言は、いわゆるマタハラとして男女雇用均等法によって禁じられますので、絶対にやめてください。

(5)服装や化粧について発言したらセクハラとなるのか?

服装や化粧について発言した場合ですが、これも女性であることに着目して行われる発言ですから性的な言動といえなくはありません。

服装や化粧について触れただけで就労環境を悪化させる行為とはいえないことが多いでしょうが、例えば、服装がケバくなった、化粧が派手になったから彼氏ができたんじゃないかとかからかうのはセクハラにあたる可能性があります。

最近キレイになった、彼氏ができたんじゃないかと言いながら交際相手との性生活をからかったりするのは疑問の余地なくセクハラです。

こうした言動は、残念ながら、懇親会の席等でお酒が入ってたがが外れていってしまう場面では未だに散見されるようですが、厳に戒めてください。

逆に、女性社員の服装やネイル、髪型、ヘアカラーが職場には不適切と思われる場合に、注意したいがどうしたらよいか分からないという相談を受けることもあります。

このような指導は、職務上必要なものであってセクハラとはいえません。

ただし、特定の個人に対する恣意的な指摘だと受け止められないためには、職場での服装のガイドラインを定める等、基準を明確にすることが大切だと思われます。

なお、相手への配慮のつもりで、「その服装は僕は好みなんだけど。。」等と自分の好みを加えたりするのは、不適切と受け止められる場合もありますので、注意して下さい。

執筆者プロフィール
弁護士紹介|浮田 美穂(副所長) 弁護士 浮田美穂 >>プロフィール詳細
平成14年より兼六法律事務所で勤務。
女性からの相談が多いため,セクハラ・パワハラの被害についての調停・訴訟の経験もある。

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